スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ままならない (LINK:primeira desejo61〜63)

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 人生はなかなか思い通りになんていかないものだし、試練は思いもよらない形で最も効果的なタイミングで訪れる。

 色々とやりたいことが生まれ、具体的な計画を立て、実行に移そうとしても、ままならないものだ。
 がんちゃんとスルドを買いにいったり、資金調達のためのアプリ開発を行ったりするつもりだったが、それどころではなくなってしまった。


 エンサイオの時。
 がんちゃんが手首を痛めてしまった。
 根を詰めすぎたらしい。今までのがんちゃんの生活の中で、がんちゃんをここまで夢中にさせるものはなかったため、現れてこなかった性質だ。資質と言い替えても良い。

 スルドと出会ったがんちゃんは、エンサイオとは別に毎日自主練をし、バイトがない日にはなんと5時間もぶっ通しで練習パッドを叩いていたようだ。
 あまりのことに、驚きの声をあげてしまった。呆れの声でもある。流石にやりすぎだ。
 他にやることないなんて言ってるのも、極端な一点集中型であることを表しているように思えた。

 がんちゃんのことはおおよそ把握していた気になっていたが、思わぬところで底知れない部分が垣間見えた。


 がんちゃんには類い稀なる深い集中力と、その集中力の持続力、そして単調な反復作業を厭わない努力の才能があった。
 これを例えば勉強に向ければ、私など簡単に凌駕できるのでは無いだろうか。
 嬉しい発見であるが、今回はこの資質が裏目に出た。その集中を身体の限界を越えるまで使ってしまったのだ。

 エンサイオその日のうちに、医者であるハルが時間外でありながらも自身の病院で診察をしてくれた。保護者代わり兼荷物持ちと送迎で私も付き添った。

 重症とまでは言えない程度の腱鞘炎。
 楽器の奏者にとっては他人事ではない症状だ。部活時代にクラリネット仲間には右手を痛めた者は何人かいたし、私自身、他者を教訓に気をつけていたら、なぜか左手を痛めてしまっていた。
 楽器を真剣にやればやらるほど起こりがちな問題だったのに、なぜ気にしてあげられなかったのか。悔やまれてならない。


 がんちゃんの心配ごとはただひとつ、イベントに出られるかどうかだ。

 ハルの見立てでは絶対安静にしていれば完治までは二週間程度。イベントには間に合う公算だ。
 しかし医者でありチームの代表でもあるハルの立場では、万にひとつのリスクもケアをする必要がある。そう重くはなくても利き腕に係る怪我だ。後遺症リスクを考えたら甘くみて良いものではない。
 ハルからはイベント出演の条件として、完治と認められ、親の承認を得ることが条件として提示された。


 とにかく今は、がんちゃんの完治に向けて全力でサポートする。買い物など後で良い。


 がんちゃんは放っておくとなんでも自分でやろうとしてしまう。これは遠慮というより、誰かに頼るという思考が元より抜け落ちているのだと思えた。
 がんこが早いうちから親に頼れないと思うようになり、思春期頃には私には頼りたく無いと考えるようになった影響だろう。

 がんこの様子を注視し、必要があれば奪うくらいのつもりであの子がやろうとしていることを巻き取っていかなくてはならない。

 頼らないということは、どこかで無理をすることになる。それは絶対安静とは逆の動きにもなり得、完治が遅れればイベントには出られず、がんちゃんは、最も望んだものを手に入れられないという結果が待つことになる。それで得るのは絶望感か喪失感か虚無感か。
 がんちゃんにそんなものを与えたくはなかった。



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