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MFP
しおりを挟む「アイジさんはコピーライターで、『からしーふーど』のふたつまえのCMのコピーもアイジさん作らしいよ。すごいよね」
なんと、『からしーふーど』は私も子どものころから好きな名作ポテトチップスだ。いわゆるMy favorite potatochips。『MFP』だ。ひとは誰しも心にMFPを持っていると言う。私の説だ。私という生きたデータに基づいているので多分合ってる。
『からしーふーど』はがんちゃんも好きで、よく分け合って食べたものだ。
母はあまり買い与えてはくれなかったが、小遣いなどで自ら入手する場合においては、あまり良い顔はされないものの、過剰にさえならなければスナック菓子くらいは許容してくれた。
改めて考えれば確かにすごい。
一流メーカーの、自分たちが子どものころから親しんでいた定番商品のキャッチコピーを手掛けていたなんて。
ふたつ前のCMだと、パンクバンドがクラシック調のベースラインを奏で、和楽器のグループがロック調のメロディラインを奏でる楽曲に、透明感のある女性アイドルが伸びやかなヴォーカルで歌い上げる映像が流れ、サビと思しき部分をぶった切って画面いっぱいに太く特徴的なフォントの「まさに、絶妙」の文字が現れ、次の一瞬に「からしーふーど」のパッケージをわかるように持ったヴォーカルのアイドルが良い音を出して一枚かじる画面を出し、最後にメーカーロゴで終わるという、ほぼ何の説明の無いインパクト重視のものだったと記憶している。
メーカーや商品自体の知名度があるからこそできる思い切った内容だったが、奏功してしっかりインパクトには残っていた。
言葉としては奇を衒ったものでもなければ、新規性の高いものでもない。日常的な言葉に過ぎないのに、これを見た後はこのCMに相応しいコピーはそれ以外には無いと思わせる力があった。
シンプルだからこその、地に足の着いた強さだ。
そう考えると、アイジは関西のひとのわりには凡庸な突っ込みが多かったが、真の実力者は突っ込みに個性を載せないとも聞く。
基礎であり基本となる突っ込みを高い精度で繰り出すことでボケの個性を出し切るのは巧者の証なのかもしれない。
おそらく生来で生粋のボケであろうるいぷるの切れ味はアイジが言葉を挟むたびに、無視という透かしの技法も含め冴えわたっていたように思える。
「アイジさん、『ソルエス』でも広報の力でバテリアを広く世間に知らしめる活動をしているんだって」
なるほど。それは良い情報だ。
ジアン周りの人間関係や、アイジの実績や取組を新たな情報として知れたが、それ以上に、所属するパートとしてだけでなく、職能や技能を用いてチームに貢献するという関わり方もあるのだと知ることができた。
そう考えると、奏者として楽しむのは当然として、自分の能力や技術など、できることを活用してチームに貢献するのも、楽しそうだ。
習い事のように、お月謝を払ってベネフィットを受け取るという関係性ではなく、コミュニティに所属し、コミュニティからもたらされるベネフィットは享受しながらも、コミュニティの拡大や成長、コミュニティがメンバーに提供するベネフィットそのものの価値や機会の向上などに携わることも可能なのだ。それはそれで楽しい。
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