スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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情報収集

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 追い抜いた徒歩組のメンバーはバックミラー越しにその姿を映していたが、ミラーはすぐに夜道を染める黒と後方を走る後続車のヘッドライトの光のみを映すようになり、メンバーの姿は闇に消えた。


 帰り際のメンバーたちの動きを見ていると、車組が駅まで送る習慣もあるようだが、状況によってはこのようにあぶれる人たちも出てくるのだろう。中には駅に向かう途中にある居酒屋で軽く飲んでいこうと、敢えて徒歩で行く者たちもいるようだが。
 今はがんちゃんのスルドを後部座席に乗せているが、ノートはハッチバックだから荷台に乗せられると思う。
 私が自己所有のスルドを使うようになってもひとりかふたりくらいは乗せられるだろう。私も駅まで送る側になって助かるひとが出れば、少しは貢献できる。

 短い時間でも、駅に着くまでの間会話ができるだろうから、チームメンバーのことを知っていくには、そういう積み重ねも必要だ。
 もちろん、それで充足するわけもなく、継続的な情報収集は必要だが。

 
「がんちゃんはメンバーの中でだれと仲が良いの?」
 
「柊と、穂積さんと……」
 
 それはそうだろう。
「うん」
 
「キョウさんと、あと、にーなさんがいつも構ってくれる」
 キョウさんは先生では? まあ妥当か。にーなはがんちゃんを気に入ってくれているあのダンサーか。

 ここまでは前回の体験と今日だけでも把握はできている。ここからは新しい情報だ。
 
「……」
 
「……」

 小さい音量で鳴らしていたカーステレオから流れてくるAwesome City Clubの曲の音だけが車内にあった。
 
「え?」
 
「え? なに?」
 
「いや、終わり?」
 
「え、うん。あ、あとはジルさんとメイさんが面倒よく見てくれるかなぁ」
 
 ジルって新人担当だよね。メイは小太鼓に当たる『カイシャ』の奏者だが、バテリアのリーダーでもある。ふたりとも役割を果たしているだけでは。


 この状況に特に思うこともないのか、両手でボトルを掴んでちうちうとドリンクを吸っている。かわいいなぁ。
 しかしがんちゃんのこの小動物スタンスはどうしたものか。

 メンバーががんちゃんに概ね好意的なのはわかる。かわいがられていると言っても差し支えない。
 それはがんちゃんの姉というだけでみんなが私に好意的に話しかけてくれることからもうかがえる。

 妹を贔屓目に見ているのは承知の上だが、控えめに言ってもがんちゃんは愛されキャラだと思う。
 だけど、それに胡坐をかいて自ら積極的に交流を広げてはいないのだろう。と言うか、胡坐をかいているわけでもないのか。
 ただ在るがまま在るというだけなのだ。
 エンサイオでは、きっとキョウさんの教えを受けストイックに練習に没頭しているのだろう。
 まだイベントには出ていないし、打ち上げなどの機会も得られていないのだから、人間関係が閉ざされているのも無理が無いのかもしれない。
 
 がんちゃんが好かれているなら、今後イベントに出られるようになっていければ自ずと関係性は広がっていくだろう。それほど心配をする必要はないか。
 情報収集の目的は別途果たせる。
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