スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
50 / 215

ウリ

しおりを挟む
 騒々しいやり取りには加わらず、その様子を微笑ましい様子で眺めていた男性ダンサー。
 笑顔が素敵な王子様タイプだ。


 やはり見覚えがある。ウリ、ウリ......。

「あっ......! もしかして羽龍うりゅうさん⁉︎ 北光きたみつの⁉︎」

 驚きのあまりついナカトミのカマタリみたいな言い方になってしまった。
 本当に今日はどうかしている。が、これほど精神に波状に揺さぶりをかけられたらそれは仕方のないことだろう。


「あれ、どこかで会ってる?」

「えーなになに、ウリちゃん昔ナンパでもしよったん? かーっ! おとなしそうな顔しよって下衆でんなあ⁉︎」などと茶々を入れているるいぷるを、「やめとけて!」と凡庸に抑えるアイジ。

 これは無視しておいて良いことくらいは掌握済み。


 ウリも全く意に介していない。流石は私のーー

「先輩! なんです。羽龍さんは、私の」

 ああ、文章がおかしくなる。
 意外と私はペースを乱されると弱いのかもしれない。経験によって弱点を知れることは幸いだ。特に弱点は自覚できないこともままある。知っているのといないのでは、雲泥の差がある。
 知っていれば克服するにしても補うにしても捨てるにしても、効果的な選択を自らの意思で選べる。

 この場に於いては「修正」だ。
 ひとつ。大袈裟にならない程度に大きく息を吸い、吐いた。
 体勢を立て直す。


「私、起業インカレサークル『TA +d』に入ってます。ウリは羽龍さん......立ち上げメンバーの北光さんですよね?」

 思考(Thinking)と行動(Action)にdesign性を持たせることを旨とした企業系のインカレサークル『TA +d』。
 その立ち上げメンバーとして。
 そして、起業サークルとは言え、実際に起業できた数少ない事例のひとりであり、直近では行政を巻き込んだ大きなプロジェクトを成功させ、今なお勢いのある経営者として。
 サークル内で北光羽龍の名前や写真を見る機会は多かった。
 また、遠目で九十分程度ではあったが登壇も見に行ったこともある。間違いなく本人だ。

「ああ、後輩だったんだ? よろしくね
『TA +d』に入っているってことは、経営や経済に興味があるのかな?」


 起業サークルに入っていても、必ずしも全員が起業を目指しているわけではない。ウリの訊き方なら全てを網羅している。

「はい、それともう少し広い意味で、会社を起こすことに限らず組織の出来上がり方、人同士の結びつき方にも興味があって」

「なるほど、良い着眼点で物事を捉えているね。カンパニーの原点てそこだから」


 会社を起こすことは、本来は目的にはならない。
 目的があり、それを為すために、個人ではできないことを補うために、人と人とが繋がり合い協働し、より目的に沿う、または目的の先にある次の目的、さらにその次の目的に到達する集団を形成し続けることが、結果としての会社となるのだから。
 会社を意味するcompanyが、仲間を意味しているのも至極当然である。

「一応経営者だから、なにか訊きたいこととかあったら気軽に訊いてよ。あと、そうはいっても同じ『ソルエス』のメンバー同士なんだから、あんまり先輩後輩の関係性は気にしなくて良いし畏まらなくて良いからね」

 先ほどと変わらないにこやかな表情だ。
 実力実績経験を備えた先輩が身近な存在になるなんて。想定していなかった幸運だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...