42 / 215
ほづみとひい
しおりを挟む
ミーティングのあとは、合同練習になる。
エンサイオとは本来、バテリアとダンサーが合同で行う練習を指す。
合同が始まるまで音響の調整やバテリアメンバーが打楽器を持ってダンサーの練習場に移動するなど、準備に少し時間が必要となることもあり、休憩を兼ねた空き時間となっていた。
私は借り物のスルドを持って移動した。先ほどの練習中でリズムを外すことはほとんどなかったので、合同練習時もスルドを叩かせてもらえることになった。
チカの隣にスルドをセッティングする。
開始までもうしばらく時間がありそうだった。
ダンサーのみんなも思い思いにドリンクを飲んだり、座って休んだり、おしゃべりしたりしている。中にはストレッチをしたり、壁面一面のミラーに向かって動きのチェックをしているストイックなダンサーもいる。
さて、まずは。
「改めて、よろしくお願いします」
おしゃべりをしていたふたりのダンサーに話しかけた。雰囲気のよく似たふたりだ。
「あ、こちらこそお願いします」
「お願いします! がんちゃんも姉妹で参加かぁ、なんか楽しくなりそう!」
がんちゃんが練習場を出て行ってしまった日。私は体験させてもらおうと最後まで残っていた。
その日もハルは体験者として紹介してくれた。
ダンサーの練習場にいたダンサーたちは事と次第を詳しくは把握しておらず、ハルはうまく大袈裟にならないように状況を伝えて紹介してくれた。
その時にも軽く会話することができた、がんちゃんの同級生のひいと、その姉のほづみだ。ほづみは私と同学年だ。
「これからは姉妹ともども仲良くしてね」
「こちらこそ!」
ひいは元気で明るい。がんこの良い友達だ。
「いのりちゃん」
「いのりで良いよ。私もほづみって呼んで良い?」
「もちろん! いのりはがんちゃんと仲良いんだね」
ほづみは嬉しそうに言った。
「いのりはがんちゃんと仲が良い」と言う言葉がすっと出てくるには条件がある。
自分たちは仲が良くない場合。「(私たちはそうではないけれど)いのりは仲が良いんだね」と言う言い方になる。
これはこのふたりには当てはまらない。どう見ても姉妹仲は良さそうだ。
ほづみの表情も加味して考えると、仲が良いことを確認する意図であり、そのことが嬉しいのだと言うふうに捉えられる。
普通に考えれば同じ趣味を同じサークルで始めようと言うのだから、まあ仲は悪くはないのだろう。そして、一般的な姉妹の仲が悪くないことはさして珍しいことではない。敢えて確認するようなものでもないし、自身もそうであるのなら、姉妹仲が良いと言うことが殊更に嬉しがる要素になるものではない。
以上のことから、ほづみはきっとがんちゃんの屈折と、私たちの関係性を知っていたのだろう。
そして、おそらく良い家庭で姉妹仲良く真っ直ぐに育ってきたのであろうほづみとしては、妹の友だちの姉妹仲に懸念を持っていたのかもしれない。
面倒見の良いひとなんだろうな。
そう言えば、がんちゃんが夜に急に話しかけてくれたことがあった。
あの日がんちゃんは、友だちの家に遊びに行っていたはずだ。
その友だちというのは、きっと......。
私たちを仲が良いと評価し嬉しそうにしているほづみに答えた。
「うん。ありがとう!」
そのお礼は、評価してくれたことに対してのものと聞こえただろうか。
真意が伝わっているかどうかはどちらでも良かった。
がんちゃんのことを想ってくれたこと、その心をほぐしてくれたこと。
そのことへの感謝をどうしても口に出して言いたかっただけなのだから。
エンサイオとは本来、バテリアとダンサーが合同で行う練習を指す。
合同が始まるまで音響の調整やバテリアメンバーが打楽器を持ってダンサーの練習場に移動するなど、準備に少し時間が必要となることもあり、休憩を兼ねた空き時間となっていた。
私は借り物のスルドを持って移動した。先ほどの練習中でリズムを外すことはほとんどなかったので、合同練習時もスルドを叩かせてもらえることになった。
チカの隣にスルドをセッティングする。
開始までもうしばらく時間がありそうだった。
ダンサーのみんなも思い思いにドリンクを飲んだり、座って休んだり、おしゃべりしたりしている。中にはストレッチをしたり、壁面一面のミラーに向かって動きのチェックをしているストイックなダンサーもいる。
さて、まずは。
「改めて、よろしくお願いします」
おしゃべりをしていたふたりのダンサーに話しかけた。雰囲気のよく似たふたりだ。
「あ、こちらこそお願いします」
「お願いします! がんちゃんも姉妹で参加かぁ、なんか楽しくなりそう!」
がんちゃんが練習場を出て行ってしまった日。私は体験させてもらおうと最後まで残っていた。
その日もハルは体験者として紹介してくれた。
ダンサーの練習場にいたダンサーたちは事と次第を詳しくは把握しておらず、ハルはうまく大袈裟にならないように状況を伝えて紹介してくれた。
その時にも軽く会話することができた、がんちゃんの同級生のひいと、その姉のほづみだ。ほづみは私と同学年だ。
「これからは姉妹ともども仲良くしてね」
「こちらこそ!」
ひいは元気で明るい。がんこの良い友達だ。
「いのりちゃん」
「いのりで良いよ。私もほづみって呼んで良い?」
「もちろん! いのりはがんちゃんと仲良いんだね」
ほづみは嬉しそうに言った。
「いのりはがんちゃんと仲が良い」と言う言葉がすっと出てくるには条件がある。
自分たちは仲が良くない場合。「(私たちはそうではないけれど)いのりは仲が良いんだね」と言う言い方になる。
これはこのふたりには当てはまらない。どう見ても姉妹仲は良さそうだ。
ほづみの表情も加味して考えると、仲が良いことを確認する意図であり、そのことが嬉しいのだと言うふうに捉えられる。
普通に考えれば同じ趣味を同じサークルで始めようと言うのだから、まあ仲は悪くはないのだろう。そして、一般的な姉妹の仲が悪くないことはさして珍しいことではない。敢えて確認するようなものでもないし、自身もそうであるのなら、姉妹仲が良いと言うことが殊更に嬉しがる要素になるものではない。
以上のことから、ほづみはきっとがんちゃんの屈折と、私たちの関係性を知っていたのだろう。
そして、おそらく良い家庭で姉妹仲良く真っ直ぐに育ってきたのであろうほづみとしては、妹の友だちの姉妹仲に懸念を持っていたのかもしれない。
面倒見の良いひとなんだろうな。
そう言えば、がんちゃんが夜に急に話しかけてくれたことがあった。
あの日がんちゃんは、友だちの家に遊びに行っていたはずだ。
その友だちというのは、きっと......。
私たちを仲が良いと評価し嬉しそうにしているほづみに答えた。
「うん。ありがとう!」
そのお礼は、評価してくれたことに対してのものと聞こえただろうか。
真意が伝わっているかどうかはどちらでも良かった。
がんちゃんのことを想ってくれたこと、その心をほぐしてくれたこと。
そのことへの感謝をどうしても口に出して言いたかっただけなのだから。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる