スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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練習

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 チカさんと同じようにスルドを叩く。

「うん、音もよく聴けてるしリズム感もあるし、私が教えることあまりなさそう」

 チカさんはいくつかの叩き方を見せてくれた。真似してやってみる。
 見様見真似だがそれっぽくは叩けた。

「そうそう、できてるね。もうすぐミーティングだから、それまで今のパターンをリズムをキープして繰り返しましょう」

 繰り返しは単調な分、維持は意外と難しい。
 音に集中していないとズレそうになる。

 チカさんは適宜指導を入れてくれるので、音量は抑えめで、とにかく型を身に付けるための練習だ。

「祷ちゃんはスルドのこと、がんちゃんから聞いたりしてる?」

 なので会話をしながらの練習になったりもする。
 音への集中が途切れ、リズムから外してしまう。これもまた修行の一環だろうか。

「いえ、実はあんまり」

 答えながらリズムを整える。

「外してしまったら、慌てて戻さなくて大丈夫。四拍のセットの途中だったら、次のセットの始まりに合わせたら良いよ」

「はい」

 変に取り繕うより、体勢を整える方が良いようだ。

「スルドにはみっつの担当があるの。がんちゃんはプリメイラ志望だって」

 叩きながらよくこんなに話せるものだ。
 完全にリズムとスルドを叩く動きが身体に染み付いているのだろう。
 バスケットボールやサッカーなどの選手が、ボールを意識しなくても身体の一部のようにボールを操れるのと同じだ。
 弛まぬ日常的な努力や習慣の賜物だろう。
 こればかりは反復に時間をかけるしかない。

 チカさんの会話には返事や相槌が精一杯だ。
 しかしその内容はスルド奏者として必要な情報だ。把握し理解しておかなくては。


 サンバはニ拍子が基本だ。
 スルドはそのベースを支える役を担う。

 ソロではなくバテリアの中で演奏するスルドは役割を三つにわけられている。
「最初」と言う意味を持つ二拍目を叩く『プリメイラ』。
「二番目」と言う意味を持つ一拍目を叩く『セグンダ』。
 ニ拍子を基本とするサンバでは、ニ拍目を最初に打っていたため、その名を冠すプリメイラがニ拍目を担い、後に一拍目も演奏に加えられるようになったため、一拍目を打つセグンダが二番目と呼ばれている。

 サンバのリズムは徐々に複雑になり、一拍目とニ拍目の間にスウィングやカッティングのリズムを加えてリズムに多彩さを加える「三番目」と言う意味を持つ『テルセイラ』。

 サンバの基本的なリズムは、このみっつの役割を持ったスルドの音で構成されている。

「ゆくゆくは祷ちゃんもどのパートを選ぶのか考えないとね」

 チカさんはリズムを崩さず笑顔で語っていた。



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