スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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ハルさん

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「家族でさえ、か。いや、本当にその通りだ。むしろ家族の方がわかりにくいとさえ言える」
 ハルさんが少し表情を柔らかくして、私の言葉の中から、ひとつの文を引き取って言った。
 
「家族には、期待や理想や甘えがあるから、却ってぶつかり合うことやすれ違うことがあるのかもしれないな。うちも父親とは公私それぞれで言い合うこともしばしばだ」

 
 ハルさんは『東風クリニック』の院長で、『ソルエス』の代表でもある。三十代半ばくらいだろうか。
 心身ともに充実している年代なのかもしれないが、それでも相当のバイタリティが無ければこなせないタスクと負えない責任を抱えていることだろう。

 
 ハルさんの父親は東風クリニックの前院長で、ソルエスの創設メンバーのひとりでもある。
 病院の経営はハルさんに譲っても、一医師として仕事は続けていて、サンバの方も楽器奏者として続けているそうだ。

 
 同じ組織や分野に家族が居れば、自ずとその領域に於けるより深い話になっていくものだ。
 お互い想いが強ければ、些細な差が許容できない大きな差になることがある。
 
 家族だから、想いをわかって欲しいという期待や甘えがある。
 家族だから、遠慮なく想いや要求をぶつけてしまうことがある。

 
 ハルさんは、父親との大喧嘩エピソードを、からっとした笑顔で伝えてくれた。
「むしろ、分かり合えることなど生涯訪れることはないのではと思ったほどだ」
 
 
 やはりこのチームは察しが良い人が多い。
 こちらから話すつもりでいたが、それを話しやすい土壌を整えてくれたのだ。
 がんこの家族のこと。
 がんこと家族、がんこと私との関係性を。
 
 無論、興味本位で探っているのではないだろう。
 本気で心配してくれているのだ。がんこのことを。

 がんこが『ソルエス』でこれからも健やかで伸びやかにサンバを楽しめるように。
 他人事ではないと捉えているメンバーの、今後の人生の枷になりそうなものは、取り外せるなら取り外した方が良いとでも言うように。

 
 私がやろうとしていた場づくりは、まさにそういうことだ。
 話が早くて助かる。
 

 
「本当に。難しいです、家族って。私ががんこの家族じゃなかったら、がんこは私のことを拒絶しなかったと思います」
 
「若いと特にね。俺も覚えがあるよ。今思えば、なんで親の言うことすべてが気に入らなかったのか」

 最近の三十代は感覚も若いひとが多いと感じている。
 そんなひと達に較べれば、随分落ち着いているように見えるハルさんでもそうだったのか。意外だ。

 
「でもそれは、さっきハルさんが言っていたように、甘えや期待の表れでもあると思うのです。甘えられる、期待されるというのは、家族だからこそなんだと」

 だから、私がそのがんちゃんの、普段はあまり表に出さない、分かり難い熱情を、受け止めてあげなくてはならないのだ。
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