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できること、すべきこと (LINK:primeira desejo43)
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突然の出来事に、私と会話をしていた三人は茫然としていて、こちらのやり取りを気にしていたひとたちも遠巻きに様子を見ている。
処置は迅速に、適切に。
「驚かせてしまってすみません、あの子、私にコンプレックスを持っていて、私ががんこの居場所を脅かしたように思ったのかもしれません」
ここはストレートに、且つ端的に。
訳が分からない状況、意味不明の癇癪に、わかりやすい正体を与えてやることで、一連の挙動自体を理解の範疇内の出来事に過ぎないものに落とし込む。
ついで、即対応すべき事柄について。
妹が出て行ったのだ。一瞬呆然とする間は合っても、矢も楯もたまらず追いかけるのが人情であろう。
実際、私だって追いかけたい。が、がんちゃんは私が嫌で逃げたのである。追いかけるなら適任は私ではない。端的な説明の中に、そこまで含めてある。
あとは……。
「がんこ、オレが探しに行っても構わねぇか?」
キョウさんが私に尋ねた。
私から仕掛けるまでもなかった。ありがたい。
きっと、察してくれたのだ。がんこにとって今、必要な要素を。
このひともまた、がんこを大切に思ってくれているのだろう。彼女の持つ、背景や環境も含めて。
「お願いできますか? あの子、多分私が行っても余計……」
「オオ、任せてくれ。連絡先訊いても良いかい?」
是非、と連絡先を交換する。
キョウさんは、がんこを見つけたらまず一報入れると言い、落ち着くまで少し連れまわしても良いかと尋ねられた。
やっぱり、きちんとしてる。
ちゃんとしたバランス感覚を備えた大人が多く所属しているサークルなのだと思う。だから、安心して委ねられる。
キョウさんに「お願いします」と伝えると、「早く安心させてやっから待ってナ」と、キョウさんは取るものもとりあえず出て行った。
私は環境づくりに戻ろう。
「お騒がせして申し訳ありません。キョウさんにもご面倒をお掛けすることになってしまって……」
ハルさんに向かい、改めて頭を下げた。
「そこはお気になさらず。がんちゃんは『ソルエス』のメンバーだ。メンバーの大事は俺たちにとっても他人ごとではありませんから。ご家族の前で差し出がましいが」
「いえ、ありがとうございます。恵まれていますね、あの子」
「こちらこそ御礼を。キョウさんを信頼してくれてありがとう。彼は見た目や話し方がああですから。良い人間なのは俺が保証しますが、初対面のあなたへそれを信じさせる材料はない。にもかかわらず、未成年の妹さんを託してくださった」
ハルさんも真摯な表情をつくって、私に頭を下げた。
「ひとを見る目があるなどと己惚れるつもりはありません。初対面でなくても、どれだけ会話を重ねても、それでもわからないのがひとですから。家族でさえも、です。
だから、キョウさんが良い人と判断できたなんてわかったようなことは言えませんが、それでも、がんこがこのチームやスルドという楽器に夢中になれているのは、先生? 師匠? になってくれているキョウさんの影響が大きいと思えましたので」
このチーム、『ソルエス』に執着し、脅かされることを恐れ逃げたのならば、『ソルエス』に拘る理由を与えた要素のひとつであろうキョウさんは、今がんこが話すべき相手としては最適だろう。
処置は迅速に、適切に。
「驚かせてしまってすみません、あの子、私にコンプレックスを持っていて、私ががんこの居場所を脅かしたように思ったのかもしれません」
ここはストレートに、且つ端的に。
訳が分からない状況、意味不明の癇癪に、わかりやすい正体を与えてやることで、一連の挙動自体を理解の範疇内の出来事に過ぎないものに落とし込む。
ついで、即対応すべき事柄について。
妹が出て行ったのだ。一瞬呆然とする間は合っても、矢も楯もたまらず追いかけるのが人情であろう。
実際、私だって追いかけたい。が、がんちゃんは私が嫌で逃げたのである。追いかけるなら適任は私ではない。端的な説明の中に、そこまで含めてある。
あとは……。
「がんこ、オレが探しに行っても構わねぇか?」
キョウさんが私に尋ねた。
私から仕掛けるまでもなかった。ありがたい。
きっと、察してくれたのだ。がんこにとって今、必要な要素を。
このひともまた、がんこを大切に思ってくれているのだろう。彼女の持つ、背景や環境も含めて。
「お願いできますか? あの子、多分私が行っても余計……」
「オオ、任せてくれ。連絡先訊いても良いかい?」
是非、と連絡先を交換する。
キョウさんは、がんこを見つけたらまず一報入れると言い、落ち着くまで少し連れまわしても良いかと尋ねられた。
やっぱり、きちんとしてる。
ちゃんとしたバランス感覚を備えた大人が多く所属しているサークルなのだと思う。だから、安心して委ねられる。
キョウさんに「お願いします」と伝えると、「早く安心させてやっから待ってナ」と、キョウさんは取るものもとりあえず出て行った。
私は環境づくりに戻ろう。
「お騒がせして申し訳ありません。キョウさんにもご面倒をお掛けすることになってしまって……」
ハルさんに向かい、改めて頭を下げた。
「そこはお気になさらず。がんちゃんは『ソルエス』のメンバーだ。メンバーの大事は俺たちにとっても他人ごとではありませんから。ご家族の前で差し出がましいが」
「いえ、ありがとうございます。恵まれていますね、あの子」
「こちらこそ御礼を。キョウさんを信頼してくれてありがとう。彼は見た目や話し方がああですから。良い人間なのは俺が保証しますが、初対面のあなたへそれを信じさせる材料はない。にもかかわらず、未成年の妹さんを託してくださった」
ハルさんも真摯な表情をつくって、私に頭を下げた。
「ひとを見る目があるなどと己惚れるつもりはありません。初対面でなくても、どれだけ会話を重ねても、それでもわからないのがひとですから。家族でさえも、です。
だから、キョウさんが良い人と判断できたなんてわかったようなことは言えませんが、それでも、がんこがこのチームやスルドという楽器に夢中になれているのは、先生? 師匠? になってくれているキョウさんの影響が大きいと思えましたので」
このチーム、『ソルエス』に執着し、脅かされることを恐れ逃げたのならば、『ソルエス』に拘る理由を与えた要素のひとつであろうキョウさんは、今がんこが話すべき相手としては最適だろう。
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