スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
22 / 215

行動

しおりを挟む
 そうと決め、さっそく次の練習日を確認する。次の日曜日だ。
 日曜日だから楽器を持っていけると踏んで、このタイミングに限ってがんこは楽器を持ち帰ったのだろうと思うと、より確信が持てた。

 練習は日曜の十六時から二十時までの四時間。
 私の予定は全く問題ない。少し前に現地入りしよう。練習場の住所をスマホで撮影しておいた。



 練習日当日。
 がんこはまだ部屋でのんびりしているようだ。今出発すればかなり先行して現地入りできるだろう。

 免許取得のお祝いに父が買ってくれた日産ノートを起動させる。ハイブリッドモデルのコンパクトカーだ。


 生活上自動車は無くても困らず、あれば雨の日や重いものを買う時の日常使いに重宝する程度だから、軽自動車でも良いと思っていたが、母が万が一の時に軽自動車よりも頑丈な普通車にするよう勧められ、どうせならエコな方が良いかなとハイブリッドカーを選んだ。
 ノートはガソリンでエンジンを回して発電し、発電した電気で走行するので静かだ。単なる道具のひとつと思っていたが、深みのあるブルーも綺麗だし、使ってみると愛着が湧いた。

 スマホの画面に先日撮影した練習場住所画面の画像を出し、カーナビに入れ、車を出す。
 車は静かに走り出した。
 

 
 練習場は、思っているよりも大きなホールだった。
 ライブなどのイベントなども行われる規模の大きな施設だ。

 大勢の観客を収容できる大ホールの他、練習やリハーサル用の小さなホールがあり、そこで練習しているようだ。他にスタジオも同じ団体名で押さえてあることが、ロビーの電光掲示板に記されていた。

 
 少し早く到着したが、予約時間ぴったりにならないと開かないようだ。
 がんちゃんよりも早く来て、済ませておきたいことがあったのだけど目論見を誤ったか。

 四時間は練習時間としては長い。
 少し早いとはいえ、もうすぐ開始時間だが、団体が待っている様子はない。これは、四時間の中で少しずつメンバーが集まってくるといった構成なのかもしれない。
 がっつり練習プログラムが時間内で組まれているのではなく、わりとフリーな時間の使い方をする感じなのかも。

 先生なのか、代表なのか、とにかく主催の方に挨拶をしておきたい。
 その方が早く来るとは限らないのは誤算だった。

 まあ、がんこよりも先に来ていることが重要なのだから、その辺は状況で修正しながら対応しようか。
 とにかく時間になれば練習は開始されるのだ。始まっているのを確認したら、まずはそこにいる方に挨拶をしよう。
 
 
 ロビーのベンチに座っていると、ぽつぽつと入ってくる人が増えてきた。

 練習場はふた部屋とも地下にある。階段を降りていく人はサンバ団体の方だろうか。
 地下にはもうひと部屋練習場があり、そこは和太鼓の団体が押さえていた。見ただけではどちらかわからない。
 今ロビー内で確認できるひとたちは楽器を持っているようには見えない。サンバにはダンサーもいるはずだから、ダンサーかもしれない。

 と、そこで思い至った。
 私は地上の駐車場に車を停め、正面入り口から入ったが、地下にも駐車場があったはずだ。
 練習場が地下なら、楽器など重い荷物を持っていて、車で来る人たちは地下から直接練習場入りしているのかもしれない。

 
 練習の開始時間から十分程度過ぎていた。
 がんこは電車で来るから、正面から入ってくるだろう。先に入っていることに意味があるのだが、ロビーで鉢合わせでは効果が無い。

 がんちゃんはまじめだから、もういつ来てもおかしくなかった。

 
 そろそろ誰かしらかは居るだろう。
 練習着に着替えるとしたら、今行ってもみんな更衣室で誰もいないなんてこともあり得るし、音響の準備中などで邪魔になるかもしれないが、この際仕方がない。
 
 階段を降りてまず目に入ったのは小ホール。スタジオは少し奥まったところにあるようだ。
 小ホールの扉の向こうからは、まだ楽器の音などは聞こえないが、人の気配があった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

処理中です...