スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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捕獲

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 怯える小動物を追うなら、大敵は小動物の持つ過剰な警戒心。
 追いはじわじわと。一手で追うのは第一階層まで。ひとつの物事を二段階、三段階へと追及するのはなるべく避ける。
 
「あの大きい筒、楽器なんだよね? 何の楽器?」

 
 ひとつ目の質問を追求せずに、別の質問へと展開する。
 核心など突かなくて良い。確定情報など得なくて良い。いくつかの情報で真実は浮き彫りにできるのだから。
 
「サンバの楽器」

 
 釣れた!
 私は何の楽器かと訊いた。
 楽器の種類とも、何で使う楽器なのかとも取れる質問だ。
 おそらく種類の方で答えられるだろうと思っていたら、ジャンルの方が答えられた。この情報は大きい。
 しかも、幸いメジャーでどこにでもあるジャンルとは言えない。

 それにしても、サンバ?
 私がもう少し自制心が低ければ、こちらの方がばくっと食いついてしまいそうなワードだ。
 
「へぇ。あの形だと、太鼓系かな?」

 
 普通ならここはサンバの話を掘り下げる。
 サンバがそこまでは一般的ではないという認識はがんこも同様だろう。であれば、それは自然だ。多少テンションが上がっても違和感は無い。

 しかし、がんこは私に対し、そこまでテリトリー内への侵入を許してはいない。常にこちらのテンションとは反比例するものと捉えておかなくてはならない。油断はしてはいけない。

 狩りや釣りは、静かに行うものだ。
 上がるにしても下がるにしても、わずかな変動ですら獲物を逃がすきっかけとなる。

 常に平常平坦に。

 
 やや運任せになるが、おそらく絞り切れるだけの情報は得ている。
 足りなければ別の機会を以て追加の情報収集をおこなえば良い。欲張りすぎては身を亡ぼす。

 相手には、なにもされていない、なにも渡していない、差支えの無いやりとりしかしていない、と思わせたまま、そっとこちらから終わらせるのだ。
 
「楽器はじめたなら、いつかセッションしたいね」

 
 と、当たり障りのないことを言って、私の方から会話を終わらせた。

 もちろん、セッションしたいのは本音なので、できるだけがんちゃんの記憶に残るよう良い笑顔で言った。
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