スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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探り

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 がんちゃん案件を進めるにあたって、母という裏は押さえたが、これを実行するにはもうひとつ手を掛ける必要がある。

 がんこにとっては母が私にとって代わったにすぎない。
 私が行くと言っても嫌がるだろう。母には口を噤んでいたがんこも、私に対してならもう少し強硬に拒絶してくるかもしれない。

 がんこの承認を得ずに行くしかなさそうだが、そうだとしても場所や日時の情報の取得が必要だ。手の者を使うにしても迂遠に過ぎる。

 もう少し的が絞れているならともかく、この内容なら私が直接本丸を突くのが良いだろうか。完全武装で攻め込むのではなく、散歩の態でさも関係者であるかのように自然とその場に在るのが望ましい。

 がんちゃんの昨日の様子も気になる。
 十中八九精神を病んだ故のものではないだろうけど、これに関しては油断も過信もしてはいけない。絶対に大丈夫と言う確信が欲しい。絶対なんて絶対ないことくらいわかっているが、少しでも確度は高めたい。
 やはり会話する必要がありそうだ。

 ストレートに訊いても警戒されるだろうから、会話の中で探っていく。直接手を掛けることはあまりスマートなやり方ではないが、仕方がない。
 
 決行日は翌日。昨日打った手の効果が残っているうちに、迅速に。

 
 がんちゃんがキッチンで、冷蔵庫の中から何かを取り出している。
 若干の緊張感が見受けられる。母を警戒してのことだろう。がんちゃんは未だ、母が昨日の件を完全に手放したことを知らないのだ。挨拶に伺う云々の再燃を恐れているのだろう。
 
 ほんの少し漏れ出る警戒心を纏いながら、冷蔵庫を物色するがんちゃん。小動物みたいでかわいい。
 
 
「がんちゃん、ちょっと話せる?」

 
 わざと少し大きな声で言った。
 案の定「びくぅっ!」ってなってる。かわいい。

 
 「え、あ、う、うん? な、なに?」

 
 すっごい動揺してるぅ。
 ねこちゃんかなんかかな? かわいい。
 
 
「昨日お母さんが言ってた、がんちゃんの習い事に挨拶行くっていうの、大丈夫だと思うよ」
 

 良いものを見せてもらったお礼に、まず安心情報をあげる。
 
 
「見に来られるの、嫌だったんだよね?」
 ここで、ちょっと踏み込む。
 がんちゃんは昨日、私が明らかにがんちゃんを扶ける動きをしていることは認識している。露骨に避けることはし難いはずだ。
 
 
「う、うん」

 
 曖昧でどちらともとれるような返事だが、肯定だ。
 こちらは肯定であることをわかっていて質問しているが、がんちゃんとしてははっきり頷くのもためらわれたのか、私に情報を与えないようにしたいのか。それでも、無視や嘘はがんちゃんの手段には含まれていない。

 
 がんちゃんは自分のことを素直ではなくひねくれていると評価しているが、正直今時どうかと思うくらい真面目で素直で真っ直ぐだ。
 その辺は、箱入りで育ちその素養を娘にも求めた母に育てられたからだと思うと、母の在り方も一様に否定できるものではないのだろうと思う。
 

 ここまでの短いやり取りで判断できるものではない。
 私にそうあって欲しいと言うバイアスがかかってるのかもしれない。
 それでも、がんこの抱える屈折や鬱屈は、健全な思春期の心が持ち得る闇または汚れに過ぎず、病んだ状態にはないと思わせた。

 やりとりは短いながらも、がんこの表情はくるくると変わり、感情の動きが目まぐるしい。動きの振れ幅は想定していた通りの単純なもの。
 病んで硬質化してしまった無表情ではなく、しかし、情緒不安定のような、想定できる範囲に納まらない激しさはなかった。
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