17 / 215
夜半の声 (LINK:primeira desejo39)
しおりを挟む
保護者である母にとって、未成年女性の把握できない行動が心配事になるのであれば、保護者に準ずる者が掌握していれば心配事は払拭される。
私は未だ十代の学生の身分ではあるが、父兄という言葉があるくらいだ。姉もまた保護者足り得るはず。免許もある。近々成人年齢が引き下げられるという話もあるし、実質成人であると言い切っても差し支えないと思う。
対母で言えば、そんな小理屈を捏ね繰り回すまでもなく、私に任せれば安心と思っているようで、「お願いね」とあっさりがんちゃん案件を手放した。
母にとってはリスクなく処理されれば問題の無い細務であり雑務に過ぎないのだ。
だがわたしにとってがんちゃん案件は本務であり責務である。
役割分担という意味でも私が対応した方が良いに決まっている。
がんこにとって望ましい結果となるための仕上げは、私にとっても良い結果をもたらす一挙両得の業だ。仕損じるわけにはいかない。
「任せて、挨拶も私が行ってくるよ」
これで、母はこの件に関するすべてを手放し、解放された。
先ほどの鬼気迫る表情はとうに消え失せている。母がこの件でがんちゃんを煩わせることは無くなっただろう。
一方がんこの方はと言うと、複雑な想いを抱えたようだった。
その日の夜中。
隣のがんこの部屋から、微かに唸るような声が漏れ聞こえてきた。
うなされてるのかな? と思いがんこの部屋側の壁に耳を寄せる。
「うー......うぇぇ......」
間違いない。
がんこ、泣いてる。
一般的な戸建ての居室を仕切る壁は、防音機能を備えてはいないが、それほど薄いわけではない。
啜り泣く声や声を押し殺して泣いていても、隣の部屋までは届かない。
音はくぐもっているから、布団をかぶっているかもしれないが、がんこは声を出して泣いていた。
今日の母とのやりとりが直接の原因だとしたら、悲しみ、ではないだろう。
不安は少しあるかもしれない。
保護者としての動きが私に委ねられたことをまだがんこは知らない。母が挨拶に来ることが嫌で仕方ないなら、その懸念が払拭されていないのだから、不安に思うのはわかる。
ただ、身体に及ぶ危険に対しての不安などであれば、恐怖で泣くことはあるだろうが、心理的に嫌なことの場合、それそのものが声を上げて泣くほどの要因になるだろうか。
小さい要因が積み重なっていって、ある日許容量を超え、決壊したように泣くことはあるかもしれない。この場合、精神状態がかなり危うい段階にある可能性がある。
同じ属性の負荷を足し続けた場合に起こり得ることで、私の持ち得てる情報ではがんこがそのような状況にあるとは考えにくい。
思い通りにできない悔しさなどが原因というのが一番考えやすいが、ひとの精神、内面なんて理屈ではなく、見切ることなどできるものではない。
注視する必要がある。
案件を進めがてら、がんこには直接探りの手を入れなくては。
杞憂ならそれで良い。
手遅れになどはさせるわけにはいかない。それができるのは、今は私しかいないのだから。
私は未だ十代の学生の身分ではあるが、父兄という言葉があるくらいだ。姉もまた保護者足り得るはず。免許もある。近々成人年齢が引き下げられるという話もあるし、実質成人であると言い切っても差し支えないと思う。
対母で言えば、そんな小理屈を捏ね繰り回すまでもなく、私に任せれば安心と思っているようで、「お願いね」とあっさりがんちゃん案件を手放した。
母にとってはリスクなく処理されれば問題の無い細務であり雑務に過ぎないのだ。
だがわたしにとってがんちゃん案件は本務であり責務である。
役割分担という意味でも私が対応した方が良いに決まっている。
がんこにとって望ましい結果となるための仕上げは、私にとっても良い結果をもたらす一挙両得の業だ。仕損じるわけにはいかない。
「任せて、挨拶も私が行ってくるよ」
これで、母はこの件に関するすべてを手放し、解放された。
先ほどの鬼気迫る表情はとうに消え失せている。母がこの件でがんちゃんを煩わせることは無くなっただろう。
一方がんこの方はと言うと、複雑な想いを抱えたようだった。
その日の夜中。
隣のがんこの部屋から、微かに唸るような声が漏れ聞こえてきた。
うなされてるのかな? と思いがんこの部屋側の壁に耳を寄せる。
「うー......うぇぇ......」
間違いない。
がんこ、泣いてる。
一般的な戸建ての居室を仕切る壁は、防音機能を備えてはいないが、それほど薄いわけではない。
啜り泣く声や声を押し殺して泣いていても、隣の部屋までは届かない。
音はくぐもっているから、布団をかぶっているかもしれないが、がんこは声を出して泣いていた。
今日の母とのやりとりが直接の原因だとしたら、悲しみ、ではないだろう。
不安は少しあるかもしれない。
保護者としての動きが私に委ねられたことをまだがんこは知らない。母が挨拶に来ることが嫌で仕方ないなら、その懸念が払拭されていないのだから、不安に思うのはわかる。
ただ、身体に及ぶ危険に対しての不安などであれば、恐怖で泣くことはあるだろうが、心理的に嫌なことの場合、それそのものが声を上げて泣くほどの要因になるだろうか。
小さい要因が積み重なっていって、ある日許容量を超え、決壊したように泣くことはあるかもしれない。この場合、精神状態がかなり危うい段階にある可能性がある。
同じ属性の負荷を足し続けた場合に起こり得ることで、私の持ち得てる情報ではがんこがそのような状況にあるとは考えにくい。
思い通りにできない悔しさなどが原因というのが一番考えやすいが、ひとの精神、内面なんて理屈ではなく、見切ることなどできるものではない。
注視する必要がある。
案件を進めがてら、がんこには直接探りの手を入れなくては。
杞憂ならそれで良い。
手遅れになどはさせるわけにはいかない。それができるのは、今は私しかいないのだから。
2
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる