スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら

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高校生になった願子

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 がんこは進学先の高校に、家から少し離れた街の私立高校を選んだ。

 母は例によって、私が通った高校と同じ学校に行かせたがっていた。
 がんちゃんは成績的に無理だと言って受けることすらしなかった。
 本気で無理だと思っていたようだったけど、私の目算では良い線行くのではないかと評価していた。
 ただ、がんちゃん自体がその高校に行きたがってはいなかったので余計なことは言わなかった。

 
 がんちゃんが選んだ高校は、おそらく無理なく通える範囲内で且つできるだけ家から遠い学校という選び方をしている。
 少しでも家にいる時間を減らすのと、私を知っている人が遠ければ遠いほどいなくなるだろうという狙いか。
 
 無理なくというところがかわいい。
 
 
 その中で、適した偏差値の高校を選んだようだ。
 適した、と言ってもレベルは高い方だ。MARCHクラス以上の大学に進学するものも多く、国立大学や難関私大の合格者も珍しくない。進学校と呼んで差し支えないレベルの学校だ。
 がんちゃんなら、難関校と呼ばれる高校の合格も充分目指せたと思うが、自分の思惑で私立に通おうとしていることに負い目があったのか、特待生を狙う意図もあってのこの学校を受けたようだ。

 がんちゃんは無事特待生を獲得できたが、母はやっぱり不満気だった。

 がんちゃんはがんちゃんで、自らの負い目を無くしたいだけだったから、評価などされなくてももう気にしていないようだった。
 無理して最難関みたいな学校に入るよりも、余裕が持てる学校を選んだもう一つの狙いが、がんちゃんにはあった。
 

 
 私の時も、母の時代も、もっと昔だって、高校生活というものは周囲も自身も、過剰なほどに輝かしいものとして扱うものだ。
 価値観が変わり、言葉が移ろっても、「青春」という言葉の持つイメージは大きくは変わっていない。

 
 さて、がんちゃんの花のJK生活、或いは青春は、どんなものになるだろう。
 
 中学に続いて部活に入る気が無いがんちゃんは、授業にも余裕を持ってついていける学校を選び、放課後を使ってやりたいことがあった。

 
 バイトだ。

 
 趣味の無いがんちゃんがお金を稼いでやりたいことなんて決まっている。
 早くひとり暮らしをしたいのだろう。

 そんなに両親から、そして、私から離れたいのか。
 
 健気でかわいい。
 
 
 週に五日は入る勢いでバイトの面接を受け、やる気も認められ採用を得られたが、シフトは週に三日に落ち着いているようだ。
 お金を稼ぎたいがんちゃんは、掛け持ちも考えたが、初めての労働は思った以上に堪えたらしく、結局放課後の予定は週三のバイトのみという生活が続いた。
 
 長いスパンの計画。努力と労働が計画の根幹となる堅実なものだ。
 しかし、足元の計画が甘いがんちゃん。
 
 かわちい。


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