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彩田美宝
しおりを挟む彩田美宝はどこにでもいるような女の子だ。
かつては習い事のピアノに両親を巻き込んで熱中したものだった。長じるにつれ、本人と両親の熱量に逆転現象が起き、やがて反比例していくにあたって、美宝はピアノを辞めた。両親の許可を得ず、反対を押し切って。
ピアノを辞めた美宝の高校生活は、気楽なものだった。
熱中するものは無く、積極的に取り組むものもなく、友人と過ごす、当たり前の日々と、ありきたりな青春に不満は無い。
大学生活も同様に、楽しく過ごすはずだった。ほんの少しの、なにかに挑むことによって得られる高揚感と、達成感、または挫折。そんな感情が激しく揺さぶられる日々への懐かしさを抱えながら。
美宝が大学で出会った同級生の井路端映。
講義の時にたまたま隣に座り、流れでお昼を一緒に食べたのをきっかけに、仲良くなったふたり。
ある日、映に誘われた美宝。映の地元で開催されるお祭りだ。美宝の家からは少し離れていた。
特段特徴のあるお祭りというわけではなかった。
時期的には未だお祭りシーズンではなかったが、何らかのイベントは各地でやっている。
だったらお互いの家の中間地点や、ふたりともが行ってみたいと思えるようなお祭りでも良いのではないかと提案した美宝。
「お祭りのステージショーであたしも出るんだよね。それ見に来て欲しくって」そう言って微笑んだ映は、名前の通りとても輝いているように美宝には見えた。
美宝がお祭りで観たのはサンバの演奏だった。
そこで、美宝の心は掴まれてしまった――。
これが、物語の冒頭部分だった。
「これ、私? ですよね?」
もちろん、細部は異なっているし、その後の動きは完全にオリジナルだ。でも、ところどころ私とリンクする部分を持ったキャラクターだった。
「うん、誉ちゃんの背景、ちょっと使わせてもらった。勝手に使ってごめんね。嫌だったかなぁ? まだプロット中のプロットだから、全然変えることできるよ」
「んん、全くそのままってわけじゃないし、共感もてそうな主人公だし、別に嫌ってことは無いです」
実際、物語の中心となる部分は私のこれまでとはあまり関係していない。
サンバと出会った美宝。
サンバの演奏にハマっていき、やがて音楽という分野を通してブラジルの文化が美宝に浸透していった。
音楽は民族の歴史や背景や、それによって培われた想いから興り、それを載せて拡がっていく。
サンバを理解すればするほど、サンバに夢中になればなるほど、地球の裏側の遠い地が、美宝に近づいてくる。
世界を広げた美宝は、やがてブラジルと、サンバという文化を介し民間レベルからの交流を通して、お互いの文化を、アカデミックな感じではなく、遊びながら楽しみながら交換し合う美宝の、成長を追う物語。
大雑把に言えばそんなストーリーだった。
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