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本章

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 この後のコーナーは何人かの選手が順番に特技を披露する。

 特技の成功時や終了時、パフォーマンスの種類によっては演技中の盛り上げ要員として、パシスタ四名、バテリアはスルドふたりとショカーリョ、アゴゴひとりずつが、後ろに残り、それ以外のサンバ隊は一旦捌ける。

 スルドとして残るのは祷とわたしだ。
 本当はここはひとりで良い。賑やかしなので高音を鳴らす楽器の方が適してるとも思えるから、何ならスルドはいなくても良い。
 それでも残させてもらえたのは多分井村さんの配慮だ。職権濫用みたいで少し気が引けたが、せっかくなので遠慮なくイベントを参加者として楽しませてもらおうと思った。



 司会者が軽妙な語り口で選手を紹介し、該当する選手が登場する。
 司会者と二、三会話し、それぞれの持ち時間を使ってパフォーマンスを披露すると言った流れだ。

 漫才をする選手。
 自分の年間のプレーをプレゼンする選手。
 フリースタイルフットボールの曲芸を披露する選手。
 モノマネをする選手。

 サンバメンバーの賑やかしに関しては、特に段取りや台本が決まっているわけではなかった。
 割とゆるいコーナーということもあり、盛り上げ方はこちらに委ねられていて、適宜音を鳴らしたり踊ったりして選手たちのパフォーマンスに華を添える。
 多少ぐだぐだしても、それもひとつの見どころとなっていた。

 後半は歌自慢の選手たちによるカラオケだ。
 カラオケ機器で歌うのではなく、生演奏で歌うようだ。
 ステージ後方に備えられていた楽器や譜面台はそのためのものだった。

 入れるようなら、サンバチームも演奏に入って良いということだった。
 ありがたい申し出だ。邪魔をするわけにはいかないので、基本的なリズムを音量控えめで参加させてもらうことにした。
 ダンサーも歌う選手の周りで、選手を目立たせ、盛り上げるように踊る。


 サンバの曲ではないけれど。
 バテリアの編成ではなく、おまけのような立ち位置での演奏だけど。

 スルドはわたしと祷のふたりだけ。

 ふたり、横並びで、スルドを叩く。

 バテリアの演奏ではないけれど、ソロの叩き方ではなく、バテリア編成のプリメイラとセグンダとして、リズムを刻む音を放つ。

 最初は生演奏の邪魔にならないよう恐る恐る。

 生演奏のドラム奏者がわたしたちの音をうまく取り入れてくれている。

 受け入れてもらえた実感を得て、もう少し思い切りよく。

 サンバの楽器がカラオケ用の演奏にうまく調和し、迫力あるサウンドに背を押され気持ちよさそうに歌う選手たち。

 そしてそれを聴いて喜び、盛り上がる観客たち。


 気持ち良い。
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