140 / 155
本章
137
しおりを挟む
一曲目が終わってもバテリアは演奏を続けている。
リズムはそのまま、カントーラは「ヘイ! ヘイ!」とリズムに合わせて声を上げ、手を叩き観客を煽る。
客席からも同じリズムで手拍子が起こる。
パシスタたちはその間にステージ後方に移動し一列に並ぶ。全員揃ってリズムに合わせて軽いステップを踏む待機姿勢をとっている。
音が途切れないまま、『Caciqueando』の演奏が始まった。
この曲も楽し気で軽快。盛り上がる曲だ。
ステージには『ソルエス』のマランドロ三人と一緒に、同じくホワイトのスーツに身を包んだ阿波ゼルコーバの選手がステージに登場した。
マランドロ三人の中で最も背の高いハルさんよりもやや背が高く、スーツスタイルがよく似合っていた。
183センチはあるだろうか。高身長ながらアジリティやスピードに定評のある選手で、ドリブルのキレも良く、よく相手選手を一瞬のフェイントでかわし初速の速いドリブルで一気に抜き去っていくシーンが彼の特徴を表すプレイとして使われている。
甘い顔で、非常に高い女性人気を得ているとか。
事前に読み込んでおいた情報だが、彼の登場に合わせて客席から悲鳴のような歓声が上がっていることから、その情報に偽りはないようだ。
アジリティとダンスの技術がどれだけ関係してるのかはわからないが、ダンスも上手で、三方に位置取り彼を目立たせるような演出をしているマランドロたちの効果もあるだろうけど、後ろから見ているだけでも、マランドロたちのダンスに近い動きをしたり、ノペのようなステップを踏んだりと、よく踊れていた。
昨日の合同練習では選手は来ていなかったはずだから、ぶっつけ本番かもしれない。少なくとも四人で合わせる機会はなかったはずだ。
それでこれだけ踊れるのだから、やっぱりプロスポーツ選手はすごいと思わされた。
そうだ。
プロと呼ばれているひとたちと、今わたしは同じステージにいる。同じステージで観客に向け、技術を披露している。
実際に、チームとしてではあるけれど、この演技には出演料が発生しているのだ。
お金をいただいているという意識をきちんと持って、プロスポーツ選手と同じ場にいても恥ずかしくないよう演奏しなくては。
気負いがやおら過度な緊張をも誘発しそうになる。が、ふと、なんの気無しに祷の方に目を向けると、祷もこちらを見ていて目が合った。
目が合い、少し微笑む祷から柔らかな安心感を得て、冷静さを取り戻す。
微笑んだ祷がふと目線を外し客席を見た。わたしに何かを合図するような所作だった。
祷の目線の先を見る。
お父さんだ。お母さんもいる。
本当に観に来てくれたんだ。
リズムはそのまま、カントーラは「ヘイ! ヘイ!」とリズムに合わせて声を上げ、手を叩き観客を煽る。
客席からも同じリズムで手拍子が起こる。
パシスタたちはその間にステージ後方に移動し一列に並ぶ。全員揃ってリズムに合わせて軽いステップを踏む待機姿勢をとっている。
音が途切れないまま、『Caciqueando』の演奏が始まった。
この曲も楽し気で軽快。盛り上がる曲だ。
ステージには『ソルエス』のマランドロ三人と一緒に、同じくホワイトのスーツに身を包んだ阿波ゼルコーバの選手がステージに登場した。
マランドロ三人の中で最も背の高いハルさんよりもやや背が高く、スーツスタイルがよく似合っていた。
183センチはあるだろうか。高身長ながらアジリティやスピードに定評のある選手で、ドリブルのキレも良く、よく相手選手を一瞬のフェイントでかわし初速の速いドリブルで一気に抜き去っていくシーンが彼の特徴を表すプレイとして使われている。
甘い顔で、非常に高い女性人気を得ているとか。
事前に読み込んでおいた情報だが、彼の登場に合わせて客席から悲鳴のような歓声が上がっていることから、その情報に偽りはないようだ。
アジリティとダンスの技術がどれだけ関係してるのかはわからないが、ダンスも上手で、三方に位置取り彼を目立たせるような演出をしているマランドロたちの効果もあるだろうけど、後ろから見ているだけでも、マランドロたちのダンスに近い動きをしたり、ノペのようなステップを踏んだりと、よく踊れていた。
昨日の合同練習では選手は来ていなかったはずだから、ぶっつけ本番かもしれない。少なくとも四人で合わせる機会はなかったはずだ。
それでこれだけ踊れるのだから、やっぱりプロスポーツ選手はすごいと思わされた。
そうだ。
プロと呼ばれているひとたちと、今わたしは同じステージにいる。同じステージで観客に向け、技術を披露している。
実際に、チームとしてではあるけれど、この演技には出演料が発生しているのだ。
お金をいただいているという意識をきちんと持って、プロスポーツ選手と同じ場にいても恥ずかしくないよう演奏しなくては。
気負いがやおら過度な緊張をも誘発しそうになる。が、ふと、なんの気無しに祷の方に目を向けると、祷もこちらを見ていて目が合った。
目が合い、少し微笑む祷から柔らかな安心感を得て、冷静さを取り戻す。
微笑んだ祷がふと目線を外し客席を見た。わたしに何かを合図するような所作だった。
祷の目線の先を見る。
お父さんだ。お母さんもいる。
本当に観に来てくれたんだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる