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本章

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 一曲目が終わってもバテリアは演奏を続けている。
 リズムはそのまま、カントーラは「ヘイ! ヘイ!」とリズムに合わせて声を上げ、手を叩き観客を煽る。
 客席からも同じリズムで手拍子が起こる。

 パシスタたちはその間にステージ後方に移動し一列に並ぶ。全員揃ってリズムに合わせて軽いステップを踏む待機姿勢をとっている。


 音が途切れないまま、『Caciqueando』の演奏が始まった。
 この曲も楽し気で軽快。盛り上がる曲だ。

 ステージには『ソルエス』のマランドロ三人と一緒に、同じくホワイトのスーツに身を包んだ阿波ゼルコーバの選手がステージに登場した。

 マランドロ三人の中で最も背の高いハルさんよりもやや背が高く、スーツスタイルがよく似合っていた。
 183センチはあるだろうか。高身長ながらアジリティやスピードに定評のある選手で、ドリブルのキレも良く、よく相手選手を一瞬のフェイントでかわし初速の速いドリブルで一気に抜き去っていくシーンが彼の特徴を表すプレイとして使われている。
 甘い顔で、非常に高い女性人気を得ているとか。

 事前に読み込んでおいた情報だが、彼の登場に合わせて客席から悲鳴のような歓声が上がっていることから、その情報に偽りはないようだ。

 アジリティとダンスの技術がどれだけ関係してるのかはわからないが、ダンスも上手で、三方に位置取り彼を目立たせるような演出をしているマランドロたちの効果もあるだろうけど、後ろから見ているだけでも、マランドロたちのダンスに近い動きをしたり、ノペのようなステップを踏んだりと、よく踊れていた。

 昨日の合同練習では選手は来ていなかったはずだから、ぶっつけ本番かもしれない。少なくとも四人で合わせる機会はなかったはずだ。
 それでこれだけ踊れるのだから、やっぱりプロスポーツ選手はすごいと思わされた。


 そうだ。
 プロと呼ばれているひとたちと、今わたしは同じステージにいる。同じステージで観客に向け、技術を披露している。

 実際に、チームとしてではあるけれど、この演技には出演料が発生しているのだ。

 お金をいただいているという意識をきちんと持って、プロスポーツ選手と同じ場にいても恥ずかしくないよう演奏しなくては。

 気負いがやおら過度な緊張をも誘発しそうになる。が、ふと、なんの気無しに祷の方に目を向けると、祷もこちらを見ていて目が合った。
 目が合い、少し微笑む祷から柔らかな安心感を得て、冷静さを取り戻す。
 微笑んだ祷がふと目線を外し客席を見た。わたしに何かを合図するような所作だった。

 祷の目線の先を見る。


 お父さんだ。お母さんもいる。

 本当に観に来てくれたんだ。


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