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本章

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 安達さんが拍手を送ってくれた。
 カッ、カッ、カッと、祷がマレットでスルドの縁を叩きカウントを取る。カウントはゆっくりだ。

 言い終わって一礼したわたしは急いで自分のスルドのところに向かっていた。スルドのセッティングは祷がしてくれていた。

 同時に穂積さんが柊を引っ張ってパフォーマンススペースに移動した。ふたりともポーズを決めて固まる。

 ダンっ!

 祷がスルドを叩く。その音を合図に穂積さんはカンガを脱ぎ捨てた。アイドルみたいで格好良い! 予定とは違ってしまったが、これはこれで良い。
 柊はカンガをつけずに突入していたので何やらエアーでアクションしている。まあ違和感はない。


 ドンっ!

 わたしは強い音を打ち、続けてソロのバリエーションを叩く。

 最初の演目はバテリアの音だけで演出する『バツカーダ』だ。スルドが二本だけでのスローアップなので、わたしも祷もそれぞれでバリエーションを組み合わせてリズムに彩りを加える。

 スローアップはまずはゆっくりとしたリズムを鳴らす。
 踊るふたりもリズムに合わせ、ゆっくり練り歩くように動く。腕の使い方や腰の回し方など、しなやかな動きで観客を魅了する。

 ゆっくりな動きは、それはそれで体力を消耗すると柊は言っていた。
 祷とわたしの音に合わせて動くふたりの表情は笑顔で、ゆっくり動くことで筋肉が酷使されてるなんて思わせない。


 デン、ドン、デン、ドン、デン......。

 シンプルなリズムから、リズムは変えずに手数を増やして音に厚みを加える。

 デデッデ! ドンドン! デンドンデデドン!

 トカカカカッカッ!

 転調のキッカケのバリエーションを打つ。


 ここからは早いテンポだ。


 先ほどまでとは打って変わり、跳ねたり回転したりと、ふたりの激しいフリーの演技が続く。
 躍動感に溢れ、見応えがあった。
 ふたりとも「ヒューッ!」みたいな声をあげ、テンションを上げていく。

 ダンサーはふたり。観客はたったひとりだけど、場の熱量が高まっていく気がした。

 ふたりともフリーのはずだが、息ぴったりのタイミングでサンバの基本ステップ、サンバ・ノ・ぺを踏むふたり。

 高速で動く足先は、乱れることなくリズムを刻んでいて、目を釘付けにさせる。

 ハイテンションのまま駆け抜けたスローアップ。


 ドドドドッ! デデンデン! ドゥカカカッドンドン! デデン! ドドン!
 ドゥカカカッドンドン! デン! ドン! デンッ‼︎

 音を止めたところで、ダンサーふたりもピタッと止まる。
 流れる汗も、上気した表情も、少し荒くなった息も、すべてが一枚の絵画のようだった。


 決まった!





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