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本章

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「んで、どーしたヨ?」

「あの、この前はごめんなさい」

 キョウさんは困ったような顔をして、「いや、オレには年頃の娘の心の機微なんてわかんねーからヨ」と申し訳なさそうにしていた。

 なにか気に入らないことがあったら素直に言って欲しい。態度に表して構わないといってくれた。


「そういやさっきもよ、娘だ孫だなんて言っちまったが、決して娘の代わりなんて......」

「わかってる! わたしの方こそ、キョウさんを親の代わりみたいにして甘えてた。傷つけて良い相手なんていないのに、苛立ちをぶつける目的で傷つけるようなことをわざといっちゃってた。性格悪いよね。
嫌われてもおかしくないのに、今日も普通に接してくれて......」

「性格悪ぃなんざ思ってねぇよ。
敢えて子ども扱いすっけどよ、素直な子どもなんてそんなもんだろ。どちらかと言やぁそれを出せないガキの方が心配だワ。
それにヨ、オレぁオメーから剥き出しの感情ぶつけられんの、悪かねーと思ってンだよ」


 照れたようにそっぽを向きながら、言うキョウさん。
 娘代わりというわけじゃなくても、唯一の弟子として大事に思っている。だから、本音や感情や気持ちをぶつけられるのは、むしろ嬉しいのだと言っていた。

「オメー気づいてっか?
バテリアの連中にハル坊やにーな、ほづみあたりにゃだいぶ懐いてると思うが、まだまだ良く言えば礼儀正しいナ。言い方変えればまだ固いか?
そんなオメーがよ、オレにはタメ語なンだよ」

「あ」

 そう言われると、そうだったかも。気づかなかった。

「ご、ごめんなさい」

「ばっか、謝んじゃねーよ。それが嬉しっつってンだから」

 顔を真っ赤にして、これ以上曲がらないんじゃ無いかってくらい顔を背けたキョウさんを見ていたら、わたしまで顔が熱くなってきた。

「ま、まぁ、そーゆーこったからヨ。オメーは何も気にすンな。伸び伸び思うよーにやってくれたらイイ」

 キョウさんは明後日の方を向いたまま、「そろそろにーなが戻ってきそうだ。またごちゃごちゃ騒がれてもうるせーから練習戻ろーゼ」と席を立ち練習場へと戻っていった。わたしも後をついていく。


 練習場に入ると、スルドを叩いていた祷と目が合った。すると祷はニコッと微笑んだ。「がんばったね」か「よかったね」か、とにかくそんな感じの祷の心の声が聞こえた気がして、わたしも少し微笑んで頷いた。
 キョウさんはすたすたと行ってしまったので、わたしは慌てて小走りでついていった。



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