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本章

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 エンサイオのとき、わたしはハルさんとキョウさんに謝った。一緒にイベントに出ることを楽しみにしてくれていたにーなさん、気にかけてくれていたバテリアのみんなにも報告した。柊には学校で伝えたあったから、穂積さんにも伝わっているだろう。

 ハルさんは、もしわたしが問題なければ、わたしの両親に説明に行きたいと言ってくれたが、ハルさんにあんなお母さんと対話させるのは申し訳ないし失礼な気もして、気持ちだけもらって辞した。



「少し先だけどヨ、ブラジルじゃ冬に『フェスタ・ジュニーナ』って祭りがあンだわ」

 キョウさんはわたしの状況に慰めや同情の言葉は言わなかった。
 わたしの両親の言動に対し、大人として同調ながらわたしへのケアをすることも、わたしに共感し両親の言動を否定することもなかった。

 かわりに、北関東にあるブラジル人が多く住む街にあるブラジル人向けの食材を扱っているスーパーが主催している音楽イベントに誘ってくれた。



 ブラジル人のコミュニティが中心だが街に住んでいる日本人も垣根なく参加しているイベントで、近年では近隣からも祭り目当てで観光客が訪れるようになっているらしい。
 本来は六月に行われるもので、ブラジルにとっての冬である。
 スーパーでは店主がこの国での冬の時期に故郷の祭りを懐かしみつつ、販促も兼ねて催したのがきっかけとなった。
 尚、スーパー主催のこのイベントは、今では日本の冬の時期と、実際の六月の年に二回行われるようになっている。キョウさんいわく、店主も参加者もだいぶいい加減で、「楽しければなんでもオッケー」と言った感覚のようだ。

 ブラジルではこのお祭りは収穫祭で、とうもろこしなど収穫物を使ったメニューが振る舞われる。お祭りの参加者は『カイピーラ』(田舎者スタイル)で、『クアドリーリャ』というダンスを踊って楽しむお祭りだが、件の通りスーパーが思いつきで始めたイベントなので、地域に住むブラジル人たちが、思い思いに音楽を楽しむイベントになっている。
 サンバやサンバに西洋の音楽を取り入れたボサノバ、ブラジル人が西洋の楽器に触れて生み出したショーロなど、ジャンルにも垣根はない。


 ここでスルドを叩かないかというお誘いだ。
 イベントは楽しそうだし、何より配慮が嬉しかった。
 嬉しいしありがたいと思っているのに、ささくれ立っていたわたしから出た言葉は素直な受諾でもお礼でもなかった。


「キョウさんがわたしによくしてくれるのは、娘さんにできなかったから? わたしは娘さんの代わり?」



 なにを言っているのだろう。わたしは。
 
 仮にわたしが代替品だったとしても、キョウさんがわたしへ向けてくれている想いは本物ではないの?
 受けてきた、受け取ったあれやこれやは、全部確かに在ったものじゃないの?
 だったらその源泉なんてどうでも良いじゃない。その想いは掛け値なしの真なのだから。

 なのに、わたしはわたしを想ってくれているひとに、傷つけるような言葉を言っている。わたしのことを一顧だにしない両親には何も言えない癖に。







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