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本章

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 両親には怪我が発覚し、治療をしてもらった直後に怪我のことは伝えてあった。

 ふたりとも通り一遍の心配をし、安静にしておけば自ずと治る程度の怪我に対し、さほど重くは受け止めていなかったようである。

 お父さんは元来放任で、心配性な要素も薄かったからそんなものだろう。

 お母さんは心配性な側面は持っているが、そもそもわたしのことなどたいして気にしていない。わたしがお母さんにとって意に沿わない行動さえとらなければ、わたしの動きに関してはお父さん以上に興味を示さない。

 怪我をしたということそのものについては、「女の子なのに身体に傷作るようなことして」と、的外れな不満の言葉は言っていたが、怪我そのもののことは問題視されなかった。
 心配されていないとも取れるが、活動を禁じられるような話に波及する恐れは無いと思えて却って安心した。
 もし怪我したのが祷だったら、反応は全く異なるものになっていただろうか。

 そんなお母さんだけど、夜ごはんやお昼のお弁当をフォークで食べられるよう一口サイズにしたものを作ってくれるようになったのには少し驚いた。
 久しぶりに素直にお礼を言ったところ、なんでもないような顔で「最初からそういう前提の食事を作れば良いだけだから、別に手間が必要以上に増えているわけでもないし気にしなくて良いのよ」なんて言っていた。

 それでも少なからず気にしてくれたのはありがたかったし嬉しかった。
 わたしのことを全く考えてくれていないわけではなかったのだ。

 加えて、一方でお母さんが常に見せているわたしに対しての素っ気なさ。これも、今回の件に関してはプラスに働く。


 あまり関心を寄せていない娘のたいしたことのなさそうな怪我がほぼ治っていて、その娘が習い事のイベントに出ることへの許可を求めたとして、承諾はあっさりともらえるのではないだろうか。



 そんな甘い思惑が通るなんて、なんで思っていたのだろう。
 この家で、思い通りになったことなんて今まで一度もなかったのに。







 
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