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本章

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「じゃあ......」
 行きます! と、スルドを叩き始める。
 リズムに合わせてふたりがフリーで踊る。

 思えば初めてかもしれない。
 自分の出した音でダンサーが踊る。
 鳴っている音は自分のものだけ。

「まだ入って間もないのに、がんちゃんうまくなったねー」
「うん、踊りやすい」

 穂積さんと柊が褒めてくれた。
 まだ基本的な鳴らし方しかしていない。だからか、ふたりの踊りはどちらかと言えばゆっくりで優雅な感じだった。

 拍の合間にマレットの柄でヘッドの縁を叩く高い音を加える。

「おー!」
「いいねー」

 リズムに刻みが入ることで、スピード感が増した。ふたりはその音に合わせてノペを踏む。

 何分くらい経っただろうか。
 メロディや歌がないので感覚がわからない。
 腕が少し疲れてきた。ふたりは激しく踊り続けていてすごいと思ったし、負けられないと思った。

「がんちゃん、そろそろいったん止めてみよう。キメ、できる?」

 穂積さんが踊りながら言った。
 キメとは、演奏を止める時の演奏法だ。終わりっぽくピシッとした音を出して止める。
 特に打楽器だけで演奏するバツカーダは、メロディや歌がないのでいつ終わるのかわからない。
 ヂレトールが合図を出したら、キメに移行する。

 ドッ、(カッ)、ドン、(カッ)ツッ、(カッ)、トゥッ、(カッ)、ドーーンッ、(カッ)、トゥッ、と一定のリズムを打っていたわたしは、終わりの雰囲気を出すため、デン、ドン、デン、ドン! と単調にしつつ音を大きめにした。

 それを八小節分叩いてから、いよいよキメだ。

 ドッ、(カッ)、ドド、(カッ)、ドン、(カッ)、トゥッ!。

 教えてもらったソロの奏法でキメた。

 キメと同時に穂積さんと柊も綺麗なポーズでピタッと止まった。

「やー、格好良くいったね!」
「がんちゃん、もうできてるじゃん!」

 ふたりが楽しそうに、嬉しそうに言った。

「できてたかな? 最後の方疲れちゃったよぅ」

 わたしも、我ながらそれなりにできたんじゃ? と思いつつも、実際最後の方はテンポのキープもきつくて、困ったような笑顔で尋ねた。

「できてたよー! 五分くらい経ったかな? 長かったよね。ダンサーは多少誤魔化せるけど、バテリアはできて当たり前、ミスったら許されないみたいなところもあるからきついよね」

 穂積さんに言われ、ちょっと驚いた。
 体感では十分弱くらいの時間叩いていたように思えたが、実際は五分程度だったのだ。
 長時間叩ける体力も課題だが、時間の感覚も身につけないといけないなと思った。

 柊が、そろそろイベントデビューも考えないとね、なんて言っている。

 イベントかぁ。出てみたいな。

 今顕になった体力と時間の感度という課題が改善したら出られるかな。
 今度キョウさんに相談してみよう。
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