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序章

みっつの錘 ひとつめ

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 わたしは、生まれたと同時にささやかなみっつの錘を背負わされたと思っている。


 
 ひとつめ。
 みっつ年上の姉、いのり
 わたしが生まれたとき祷は未だ幼児だったが、姉として生まれたばかりの赤ん坊の面倒をよく見、母親を良く援けたのだそうだ。

 祷は長じるにつれ、品行方正で礼儀正しく、成績は優秀。
 穏やかな活発さとリーダーシップも発揮するようになった。

 生来の面倒見の良さが、妹であるわたしだけでなく後輩や同級生、時には先輩にまで及ぶほどに拡大した姉は、生徒会長やブラスバンド部の部長など、長と名の付く役割を良く担っていた。
 姉のリーダーシップは、慈愛と器の大きさで全てを受け止め、能力の高さで課題を処理して事なきを得、目的を達成できる集団へと引き上げる。
 姉の治めるグループに入った者は口を揃えて、「優しくて」「頼り甲斐がある」と言う。その裏を打っている能力に関しては決してひけらかされてはいなく、あくまでも人格に優れたリーダーとして皆から好かれていた。
「理想の姉」という概念を体現しているかのような存在だ。


 三年の年の差というのは微妙である。
 進学先が同じ場合、姉と入れ替わるように入ったわたしは、何かにつけ姉と比較されるのは覚悟しなくてはならない。
 出来の良い姉が数々の功績を残しているのも厄介だが、その過去が美化されていくのである。
「祷はこうだった」「祷だったらこうしてた」などと、比較され続ける。
 わたしは順位だの上だの下だの、本当は気にしたくない。
 それでも比較の場に引き摺り出されるのだから、意識せざるを得ない。
 順位が云々言うのであれば、わたしだって別に成績や生活態度が悪いわけではない。なんならそれなりに評価が得られている項目もある。
 クラスや学年で見ても、中の上以上にはいると思ってる。成績で人に上下をつけたいわけではないけれど、わたしより下なんていくらでもいる。
 それでも、姉には届かないわたしは姉の劣化版のような扱いを受け、時には残念な顔をされるのだ。
 そしてその都度、姉との格の違いを思い知らされる。

 頑張っても認められず、成果を出しても褒められもしない。常に姉の影響にさらされる日々は本当につらかった。

 
 そんなこんなで、つらい中学時代を送ったわたしはほんの少しの歪みと腐りと諦めと開き直りの影響を受けた人格を形成しつつ、姉とは違う高校への進学を希望することになる。
 もっとも、成績的に姉と同じ高校に入ることなどできはしなかったのだが。
 
 
 姉の面倒見の良さは子どもの頃から変わらない。
 わたしのことを真剣に想ってくれる良い姉なのだろう。

 だから、わたしが抱えるこの想いは、わたしの歪み故なのだと思う。
 そうであるなら、姉に原因が無いのなら、わたしが何とかするしかないではないか。
 姉と少しでも離れることで、その錘が少しでも軽くなれば良いのだけれど。
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