千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら

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十五歳 浅草サンバカーニバル

名波くんとお父さん

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 名波くんのセリフは、文字通りセリフじみていて。

「お父さんを『あんた』って、昭和の不良少年じゃん! レールって言い方も......普段まあまあおしゃれな歌詞書くのに、センスどーした⁉︎」

 なんて、有働くんに突っ込まれている。
 有働くんはさっき甘えてると言われた意趣返しもあるのか、げらげらと笑っている。

「イラッと来たら思わず単純な言葉出ちゃうのは仕方ないだろ! 当時は中ニだし。今より語彙は少ないし感情的だったんだよ」

 名波くんによると、まず、お父さんが久しく見なかったような上機嫌振りが気に食わなかったそうだ。
 合格したのはお兄さんだ。頑張ったのはお兄さんだ。滅多に家にいないお父さんが、お兄さんの頑張りも知らないくせに、結果だけみて我が事のように喜んでいるのが気に食わなかった。もし落ちていたらどうだった? 結果だけで見るなら、落胆するなり呆れるなりしただろうか。どちらにしても、その頑張りを、お兄さんの在り方を認めたわけではないことが、気に食わなかった。

 名波くんの言うことはよく理解できた。きっとその通りなんだと思う。
 けれど、そこに一抹の、同じ兄弟でお父さんに認められた側とられない側の溝ができていることに、感情が揺さぶられたのではとも思った。

 名波くんはその後、反省し謝罪もしたそうだ。
 反省したと言うのは、詞を書く者でありながら、古くてありきたりなどこかで聞いたことのあるような台詞を吐いてしまったこと。
 謝罪したのは、お兄さんへ。
 お父さんとは違い、お兄さんの努力を名波くんは知っていたにも関わらず、お兄さんの掴み取ったものをレール呼ばわりしたことと、お祝いの場の雰囲気を悪くしてしまったことに対して。
 お兄さんは「あんまり尖らず、上手くやれよ。どうせ父さんはあまり帰って来ないんだ。学生としてやるべきことをやってれば、どれだけ音楽やってても文句は言われないだろ」と、許しつつ嗜めてくれた。

 お父さんには謝ってはいなく、以降数ヶ月口もきかなかったらしい。
 今は最低限の会話は交わすが、関係は決して回復はしていないそうだ。

 別にそれで良い。むしろごちゃごちゃ言われなくなって楽になったと笑っている。多分名波くんは本気でそれで良いと思っている

 ちゃんと話せばわかり合えそうだから、勿体無いと思うのはわたしの価値観であって絶対ではないのだろうか。
 親子は仲が良い方が良いと思うのはわたしの価値観で、必ずしもそうではないのだろうか。

 いろいろな関係性はあるし、親にも子にもいろいろな属性の人がいる。だから絶対、唯一無二の、なんて答えがないのはわかってる。
 でも、名波くんから象徴的なエピソードについて端的に聞いただけだけど、名波くんとお父さんの関係性については、改善の余地はありそうだし、この父子に関しては仲が悪いよりは良い方が良いと思った。
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