千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
90 / 101
十五歳 浅草サンバカーニバル

気づいた課題

しおりを挟む
 メンバーの人数、質ともに充実していて、今年の浅草は本当に期待できるのではとの思いを抱くメンバーが多かった。
 だから、わたしが感じている不安と言うか違和感は、気のせいであればよいと思っていた。大体そういうものは、気のせいでは終わらないものだ。

 
 あるイベントの時、ミツバがひとりで準備しているのに気付いた。
 準備は別に複数人でやるものでもないし、そこに違和感があったわけではない。ただ、なんとなく気になって、ミツバを気にしていたら、気付いたことがあった。
 たまたまかもしれないが、その日、ミツバに話しかける大人のパシスタは一人もいなかった。

 実際たまたまで、他の日に話をしている場面を見かけることもあった。しかし、やはり数としては少ない。相対的に少ない。

 嫌われているわけではなさそうだ。
『ソルエス』生え抜きのパシスタとしては、純粋な新人なら教えたり気を使ったりしやすいのだが、他チームで実績のあるパシスタに何かを教える等の話はしにくいらしかった。
 ミツバとしても、新参者と言うか、客将的な、ある意味お客様扱いに対しては思うところはありつつ、気を使われる立場であるのは重々承知もしていて、且つ自身も気を使っているものだからなかなかフラットに話しかけづらいようだ。

 では、教えるだの気を使うだのの必要のない、雑談なら衒いなく交わせると思うが、何せ人間関係の距離掴みの達人るいぷるがてこずる相手である。
 普通の会話と言うものもなかなかかみ合わず、このような状態になっているものと思われた。

 結果、ダンサーの中では何度やっつけられても果敢に挑むるいぷると、優れたパシスタの話や他チームのことを訊きたい学生パシスタ、無邪気なクリアンサス、パシスタ同士が構えている垣根を持っていないカザウにマランドロしか話しかけないような状況になっていた。
 練習が浅草サンバカーニバルに向けてのものに特化し始めると、コミサォンであるミツバはパシスタとはわかれてしまうため、会話の機会はより減っていく。会話の機会が減るということは、関係性の醸成の機会が減る。関係性は放っておけば基本的には目減りしていく。

 まるで自分のようだと思った。
『生え抜き』にこだわっていたわたし。
 話しかけにくかったわたし。
 両方とも去年までのわたしだ。今だって両方の側面は持っているはずだ。
 去年気づきを得て、即人間的な成長が得られたと思っているなら傲慢も良いところだろう。

 でも、みんなのおかげで少しは成長できたのは間違いがない。
 自分のことだけでいっぱいいっぱいだったあの頃には気付けなかった、周りのことに気付けているのだから。

 だから少し調子に乗ってしまいそうだった。
 両方の感覚を持っているわたしなら、どうにかできるのではないかと。


 ミツバは物言いがストレートで自分をしっかり持っていて、自分という軸で物事を捉えているような気がした。
 一方、『ソルエス』メンバーはヒトミやジルをはじめ、相手を軸にしているパシスタが多いように思える。

 自分軸のひと対自分軸のひとならぶつかるが、自分軸のひとと他人軸のひとなら、一見うまくあてはまりそうに思える。しかし実際は、他人を軸にしている方にはその自覚があるため、こちらが相手を軸にしているのに、相手がこちらを一顧だにしていないと納得がいかないという思いを抱えるのではないかと思った。


 アキは会話による情報交換によって相互理解は図られると言っていた。
 雑談のコミュニケーションはどちらかが意識をして会話を開始しなくてはならない。
 わたしにはかつてのるいぷるのように間に入って会話を発生させ、うまく主導権を渡すなんてまねはできそうもない。
 ならば、自然と会話が発生する場は何があるだろうか。

 パゴージや飲み会も悪くはないが、やはりこれは雑談の延長戦だ。
 もっと自然と、せざるを得ないような状況は……共同作業だ。
 幸い、今は衣装制作がある。
 ミツバもまじめな性格だから自主的に参加している。
『浅草サンバカーニバル』に参加するチームは、一般参加枠を設けているチームも多い。
 人数の底上げにもなるし、アーラの数が増えればより物語を伝える助けになる。
 当然、一般参加者もファンタジアを身に着けるが、それを用意するのもチームでだ。うちの場合は外注ではないので、メンバーが作成することになる。
 他にも量の多い共通のパーツなど、衣装制作日と言うものを設け、体育館などの場所を借りて、出られる人みんなで製作するのだ。自分の衣装だけ完成させれば良いのではないのである。

 家内制手工業そのもので、個人で完結するのではない。
 この場は使えるのではと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...