ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら

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北光羽龍

書上からの情報

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「社長、報告事項とは別に、ひとつお耳に入れておきたいことが」

 報告が一巡した後、書上さんが口を開いた。
 この会社で書上さんだけが俺を社長と呼ぶ。
 それぞれの立場、状況で役割があり、判断や責任は発生するが、縦割りにするつもりはなく、有機的に機能すれば良いので、あまりかしこまらなくても良いと伝えたのだが、「この会社はいずれ大きくなる。そうなっても社長と日下さん達との関係性は変わらないと思うし、変えないで欲しいとも思う。
しかし、組織が大きくなれば、ある程度縦のラインも明確にしておかないと無用な混乱を招きます。外様であり社歴で言えば一番末席の自分が、拡大に向けた内部統制の礎になりたいのです」と頑なだった。

 書上さんとは、まだうちに来る前に一緒に飲んだこともあり、その時の砕けた様子を知っているだけに少し寂しいとも思ったが、長幼の序を重んじようとその姿勢をありがたく受け入れたのだ。
 その書上さんが、改まって伝えてくれた情報は、市政の案件で関わった行政の担当者からもたらされたものだった。

「プロジェクトは完了しましたし、社長が受けている広報のコンサルの契約ももうすぐ満了ですが、市の都市計画は続きます。広報の効果が薄まる頃に再発注いただけるとの内諾をいただいているのですよね?
直截な影響はないと思いますが少し気になりまして。社長の地元のことでもありますから」

 そう前置きをして語られた内容は、新たな開発エリアの住人からの、不満の声だ。
 要約すれば、子育て世代向けに打ったキャッチコピーに惹かれてこの街に住もうと決めたのに、託児所などの受け入れが万全ではない実態への不満である。

 事実、子育て世代の若いファミリー層向けに打ったキャッチコピーが一人歩きし、この街は急激に人口を増やしていった。もちろん、コピーの力だけではなく、新駅開発に伴う利便性の向上と、そこに合わせたデベロッパーの手による都市開発。駅に隣接した大規模な商業施設と、その周りを囲うように建てられた大規模レジデンス群、そのマンションを販売する不動産会社の営業マンたちの尽力によるところの方が大きい。
 何故ならば、政策としての子育て世帯への支援策としては、殊更他のエリアと比較して充実しているわけではなく、急激に増えた人口の受け皿も、民間企業の論理で増やされた住宅や店舗など以外は、旧来のままで追いついているとは言えなかった。

 書上さんからもたらされた情報は、そんなギャップに対してのものであるが、PRポスターやホームページなどで展開されたキャッチコピーは、さもその対象に対して住みやすい街であるかのように市が謳っていたものだから、クレームとしてはより鋭角化しやすいのだろうと思った。
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