ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら

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序章

マランドロ教室

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「座学も大事だと思うけど、今は少しでも練習した方が良いんじゃ?」

 言ったのは横並びに座って講義を受けている二人の男性のうち、オリーブ色のシアサッカージャケットを着た柔和な印象の男、北光羽龍きたみつうりゅうだ。
 サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』にはウリの名で登録している。

 そうだな、一理ある。
 入会したての彼がデビューイベントを控えているのだ。今は一秒でも多く練習したいのだろう。
 だが十理はない。マランドロとは、技術のみで為るのではないのだから。

「心技体と言うだろう。
CB400SFが長期に亘って名車たり得たのは、ハンドリングとエンジン性能の融合が、乗りやすさだけではなく乗り手次第でレース仕様のバイクにも匹敵する機能性を発揮していたからだと思わないか?」

「俺、あまりバイクとかよくわからない」

 残念だ。彼の愛車はホンダのアコードと聞いていたが、ホンダのバイクには詳しく無いらしい。
 人生の六分の一くらいは損してるだろう。

「ウリ、余計なこと訊くな。長くなる」

 余計なことを言ったのはもう一人の男、高天暁たかまあきらだ。黒いロングTシャツでカジュアルな様相だが、鋭い印象を持っている。
 彼はアキの名で登録していた。

「アキ。こなせば終わると思っているなら、今日が終わらない一日の初日となるぞ」

 アキは「終わらないのに初日ってなんだよ」とぶつぶつ言いながらも傾聴の姿勢を見せた。
 結構。素直ではないか。

「俺がふたりに伝えたいのは、知識ではない。
魂の在処と在り方だ。
フィロソフィーは何処に宿る? 意識か? 記憶か? 心か? 想いか?
無論そのすべてであるが、それらがすべてではない。
歴史である。
ルーツが生み出し、伝播し浸透し繋がったそれは、数多の解釈を内包しつつも、今を生きるすべてのマランドロへと継がれている。
己がどれほどのものを受け継いだのかを、まずは理解すべきであろう」
 

 マランドロは直訳すればや「ごろつき」や「ならず者」だし、マランドラージェンは「悪知恵」や「狡猾さ」となる。

 ゼ・ピリントラは貧しさの中から身を立て、貧者を助けるため、時に相手を出し抜き、時に戦いに身を染めたこともあったはずだ。
 それでも神として祀られるに至った彼を、単なる悪党と評する者は皆無だろう。

 サンバで表すマランドロとは、そう言う者でなくてはならない。

 サンバは宗教的、精神的な側面も持っている。
 精神性を身に付ける事も重要なのだ。
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