スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
115 / 218

公園

しおりを挟む
 放課後。良く晴れている。日も長くなった。しばらくは明るいだろう。

 夏と言って差し支えの無い暑さの日も増えてきたが、本格的な夏まではまだ少し猶予がある。

 
 気持ちよく散歩できる機会って、実は貴重かも。

 
 そう思ったわたしは、学校近くの公園で過ごすことにした。
 動画の撮影するなら、学校内をスポットとして考えていた。野外なら公園も良いかもしれない。


 ロケハンも兼ねられるな。なんて思いながら公園へ向かった。

 
 今日はバイトも練習もない。
 放課後はササと過ごそうと話していた。カヨはバイトの面接。ドラッグストアらしい。

 ササは先生に質問があるそうで、先生は別件がありその後の対応となるため少し時間が掛かりそうだった。
 適当にどこかで時間潰しててと、謝りながら言うササに気にしないように伝えたわたしは、ふっと湧いたひとりの自由な時間の使い方を考えなくてはならなくなった。

 
 図書館も良いが今日は妙に眠くて、寝てしまいそうだし。
 人を待つためだけにカフェに入るのもお金が掛かる。
 ショッピングモールを見て回るほどの時間は無いと思う。
 
 そんなこんなで、選んだのが公園で過ごすという選択だった。
 
 
 公園と言っても、入っただけで一面見渡せるような広さのスペースに遊具が少し、といったよくある公園ではなく、広いグラウンドと、その周囲には手入れされた森林にウォーキングやジョギングができるコースのある規模の大きい公園だ。ところどころにベンチもある。

 
 コースを少し外れて土の上を歩く。
 少し湿った土の感触がスニーカーのソールを通して足に伝わった。

 学校指定のローファーも嫌いじゃないけど、最近お気に入りのML574のオールホワイトを履いていると、色々な場所を歩きたくなる。

 校則違反にならないようにと選んだ白一色は、汚れやすいという欠点を持っている。
 自ずと頻繁に洗うことになるが、その洗いざらしの感じも、落とし切れない汚れの跡も、新たにつく適度な汚れも、なんだか「自分のもの」「自分の歩んできた道の結果」って気がして好ましかった。
 
 
 ロード沿いではなく、少し奥まったところ、木々の間に据え置かれたベンチがある。
 見たところ汚れてはいないが、さっとハンカチで払って座ろうと思ったら、木の根元のところにネコが座っていた。

 
 逃げちゃうかな?

 
 そーっと近づくと、ネコは少し警戒した素振りを見せながらも、逃げようとはしなかった。

 
 より慎重に距離を詰める。
 触れるほどのところでしゃがみ込んでも、「にゃあ」とひと鳴きしたネコはいつでも逃げられる態勢は維持したまま、こっちを見ていた。

 
 飼い猫ほどではないけど、多少人には馴れているのかもしれない。
 ……捨てられたネコだろうか。

 
「触っていーい? どこかの子?」

 
 手を伸ばしゆっくりと背を撫でる。

 ネコは気持ちよさそうに目を瞑り、伏せる格好となって身を任せている。足は完全にしまってはいない。

 多少警戒は緩めてくれたようだ。

 触れられたということは、やっぱり人に馴れてはいるみたい。

 
 撫でていると、次第に喉をゴロゴロ鳴らし始めた。良かった、気持ち良いみたいだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
 大学生となった誉。  慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。  想像もできなかったこともあったりして。  周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。  誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。  スルド。  それはサンバで使用する打楽器のひとつ。  嘗て。  何も。その手には何も無いと思い知った時。  何もかもを諦め。  無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。  唯一でも随一でなくても。  主役なんかでなくても。  多数の中の一人に過ぎなかったとしても。  それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。  気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。    スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。  配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。  過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。  自分には必要ないと思っていた。  それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。  誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。  もう一度。  今度はこの世界でもう一度。  誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。  果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...