113 / 218
支援
しおりを挟む
別に家族から蔑ろにされているなんて、いじけてはいなかった。
掛けられている手間や想いの比重が異なるのは承知していたし、当たり前だとも思っていた。
だから特別な不満は持っていなかった。持っていないと思っていた。
けれども、差があることへの認識はしっかりとあった。
不満はないし、あったとしても理解と納得で塞げていた。
でも、お父さんが言葉にしてくれたことで。
マレがわたしを気にしていたことも伝えてくれたことで。
なにかが滞りなく流れるためには阻害となる塊が、じんわりと溶けていくような感じがした。
「わかったよ。うん、わかった。お父さんの気持ちもお母さんの気持ちも、マレの気持ちも。みんながわたしのこと考えてくれているってわかって嬉しい。それが負い目や引け目になるなら気にしないで欲しい。わたしはわたしで結構好きにさせてもらっているし、今後何かあれば思う存分わがままも言うから」
事実、気付かないようにしていた部分はある。
それによって知らず知らずのうちに溜まり固まった想いもあっただろう。
でもそれだけじゃない。
毎日楽しく過ごしているのも事実だし、何にも縛られることなく自由に過ごさせてもらっているのも事実だ。
決して負荷と不遇を押し付けられているわけじゃない。
「忙しいのに時間使ってくれてありがとね。でもこんなに長々と話してても大丈夫?」
「大丈夫じゃないな。既に何件もコールが入っている。でも良いさ。娘との特別な時間には替えられない」
愛とかもそうだけど、ちょくちょく恥ずかしい表現使うんだよな、お父さん。
フランスに染まったのだろうか。
「望は平気か? そろそろ寝る時間だろう? 繋がったとき、計算してたと言っていたが宿題か?」
「ん、もう少ししたら寝る。収支計算してた」
「収支?」
「バイト代足りないなーって思って」
「生活費が足りないということは無いだろ?」
うん、必要充分な額をもらっている。心配させないよう明るい声で肯定の返事を返した。
しかしお父さんの質問は止まらない。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「んー、まあ」
「おい、そういう時こそ頼ってくれよ。なにが欲しい? いくらするものなんだ?」
「ええと、楽器なんだけど……」
「あぁ、希から聴いたな。サンバはじめたんだって? そういうのも言ってくれたら良いのに……まあ良い、それくらいは出させてくれよ。いくら必要なんだ?」
「買うのまだ決まってなくて、大体五万円~十万円くらいで、今数万円あるから、あと五万くらいあれば高いの欲しくなってもなんとか買えるかなーと」
「そうか、十万あれば良いんだな?」
「や、今貯金が数万はあるから差額……」
「まず、楽器で十万な! 他に活動費で必要は無いか?」
「ちょっと、大丈夫だって!」
「別に金さえ出せば良いなんて思っているわけじゃないぞ? ただ、せっかく望が見つけた取り組みだ。金のせいで制限を受けるなんてことには絶対にしたくない。せめて楽器代は満額受け取ってくれよ。なにするにしたって交通費だの細かいお金も出ていくんだから」
お父さんは有無を言わせるつもりはなさそうだ。
まあ、そういうことなら、甘えようかな。
掛けられている手間や想いの比重が異なるのは承知していたし、当たり前だとも思っていた。
だから特別な不満は持っていなかった。持っていないと思っていた。
けれども、差があることへの認識はしっかりとあった。
不満はないし、あったとしても理解と納得で塞げていた。
でも、お父さんが言葉にしてくれたことで。
マレがわたしを気にしていたことも伝えてくれたことで。
なにかが滞りなく流れるためには阻害となる塊が、じんわりと溶けていくような感じがした。
「わかったよ。うん、わかった。お父さんの気持ちもお母さんの気持ちも、マレの気持ちも。みんながわたしのこと考えてくれているってわかって嬉しい。それが負い目や引け目になるなら気にしないで欲しい。わたしはわたしで結構好きにさせてもらっているし、今後何かあれば思う存分わがままも言うから」
事実、気付かないようにしていた部分はある。
それによって知らず知らずのうちに溜まり固まった想いもあっただろう。
でもそれだけじゃない。
毎日楽しく過ごしているのも事実だし、何にも縛られることなく自由に過ごさせてもらっているのも事実だ。
決して負荷と不遇を押し付けられているわけじゃない。
「忙しいのに時間使ってくれてありがとね。でもこんなに長々と話してても大丈夫?」
「大丈夫じゃないな。既に何件もコールが入っている。でも良いさ。娘との特別な時間には替えられない」
愛とかもそうだけど、ちょくちょく恥ずかしい表現使うんだよな、お父さん。
フランスに染まったのだろうか。
「望は平気か? そろそろ寝る時間だろう? 繋がったとき、計算してたと言っていたが宿題か?」
「ん、もう少ししたら寝る。収支計算してた」
「収支?」
「バイト代足りないなーって思って」
「生活費が足りないということは無いだろ?」
うん、必要充分な額をもらっている。心配させないよう明るい声で肯定の返事を返した。
しかしお父さんの質問は止まらない。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「んー、まあ」
「おい、そういう時こそ頼ってくれよ。なにが欲しい? いくらするものなんだ?」
「ええと、楽器なんだけど……」
「あぁ、希から聴いたな。サンバはじめたんだって? そういうのも言ってくれたら良いのに……まあ良い、それくらいは出させてくれよ。いくら必要なんだ?」
「買うのまだ決まってなくて、大体五万円~十万円くらいで、今数万円あるから、あと五万くらいあれば高いの欲しくなってもなんとか買えるかなーと」
「そうか、十万あれば良いんだな?」
「や、今貯金が数万はあるから差額……」
「まず、楽器で十万な! 他に活動費で必要は無いか?」
「ちょっと、大丈夫だって!」
「別に金さえ出せば良いなんて思っているわけじゃないぞ? ただ、せっかく望が見つけた取り組みだ。金のせいで制限を受けるなんてことには絶対にしたくない。せめて楽器代は満額受け取ってくれよ。なにするにしたって交通費だの細かいお金も出ていくんだから」
お父さんは有無を言わせるつもりはなさそうだ。
まあ、そういうことなら、甘えようかな。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】領地に行くと言って出掛けた夫が帰って来ません。〜愛人と失踪した様です〜
山葵
恋愛
政略結婚で結婚した夫は、式を挙げた3日後に「領地に視察に行ってくる」と言って出掛けて行った。
いつ帰るのかも告げずに出掛ける夫を私は見送った。
まさかそれが夫の姿を見る最後になるとは夢にも思わずに…。
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/contemporary.png?id=0dd465581c48dda76bd4)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる