スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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 今更見ないようにしていたものを見せつけられても困る。それをして謝られるくらいなら、知らないままそれが過去の思い出になるまで過ごせた方が幸せだったのではないだろうか。一度でも認識してしまえば、もう知らなかった頃には戻れない。

 わたしは多分、そんなようなことを泣くのを我慢しながら言った。


「そう、させたく無かったんだよ。望をそんな風には、させたくない。親のエゴだがね。言える立場ではないし望の立場でそれをいわれても業腹だろうが」

 敢えて言う、と、とお父さんは言葉を続けた。

 複数の子が居れば、不平等は当たり前で。
 そのうえで親は、子を平等に愛すのだと。

「無論、広い世の中で、そうではない親子関係も実際はあるのだろうが、少なくとも俺も美夢も、おまえと希を等しく愛しているよ。個性の差が、愛し方の差にはなっているかもしれない。しかしその大きさは、変わらないんだ」

 そうは思えないかもしれないけどなと言ったお父さんの声は苦しそうだった。

「希には、希の夢のためには、今。今なんだ」

 人生の中で、全精力を傾けなくてはならない時というものがある。時には周囲の力も借りるだけ借りて。若い身空なら、それが親になることは想像に難くはなく、見込みがあればあるほどに、肩入れの力が強くなることも人の情だろう。

 そんなことはわかっている。
 だからわたしはそのことに不満は持っていない。


 お父さんのいう不平等。
 それも理解できている。当然だとも思っている。


 子育ての経験のない親のもとに生まれた長子。

 親とは別の年上の家族がいる末子。

 乳幼児を抱えた家での兄姉。

 受験を迎えた子。その兄弟姉妹。

 甲子園やオリンピックなどの大きな大会に出場を決めた子。その兄弟姉妹。

 障害を背負った子とその兄弟姉妹という関係性もあるかもしれない。

 手間のかからない子とそうでない子。
 性格や性質の差かもしれないし、取り組んでいるものの差。通っている場所の差なんかもあるかもしれない



 例などいくらでもある。



 なぜなら、世にある兄弟姉妹はおしなべて、平等になどなるわけがないのだから。

 特別な環境、境遇にある特例を出すまでもなく、兄弟姉妹を全く同じになど扱えるわけがない。それは、比較的条件が近くなりやすい双子であっても同様だろう。

 私たち姉妹の場合で言えば、取り組んでいるものの差や、受験や競技の大会のような、限定的なタイミングに於ける得たい成果を得るための環境を整える必要性の差が、両親が限りある時間や労力、場合によってはお金を掛けるにあたっての、平等にはならない差を生んでいる。

 それが即ち愛情の差ではないと、お父さんは言った。
 言われるまでもなく、そんなことはわかっている。

 多くの似たような境遇の兄弟姉妹たちも、その差の存在は認めるところだろう。
 親と同じように兄弟姉妹をフォローし、親に協力する者も在れば、その差に不満を抱き、なんなら態度や行動に表す者もいるだろうから、全員が全員聞き分けが良いというわけではないだろうけれど。

 その点で言えば、わたしは特に不満を抱かず、さりとて自らの労力や時間を使ってまでは協力はしていない、ごく普通の、兄弟や姉妹を持つ子どもだったのではないだろうか。

 そのあたりのスタンスも鑑みれば、わたしは決して聞き分けの良い子、姉妹思いの良い子、なんかではないのだから、改まって謝ってくれなくても良かったのに。

 差を明確に意識してしまえば、無用な感情が湧いてしまうじゃないか。



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