スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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予算組み

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(柳沢 望)

「うーーーん......」

 カチカチカチ、と計算機のACボタンを連打しゼロ表示に戻す。ボタンを押す回数は一度で良いのに。気持ちが乱れているのだろうか。

 手帳を開き、日数を数え、再計算してみる。
 結果はやはり満足のいく値にはならない。

 当たり前である。
 出揃っている条件を多少いじっても、多少の変化しかないのは。

 決まっている現在の貯金額と所持金。
 決まっている毎月の固定費。
 決まっている時給。
 決まっている日数。

 目標とする金額があるとしたら。自ずと必要なバイト時間数が決まってくる。
 目標とする期日があるとしたら。自ずと必要な一日あたりに稼がなくてはならない額が決まってくる。

 
 調整できる部分は一日あたりの働ける時間数と、変動費くらい。もしかしたら、固定費も見直せる可能性はあるが......どちらにしても劇的な改善というわけにはいかない。



 先日のエンサイオの帰り道。
 いのりちゃんとの会話で話題に出たスルドの購入。
 せっかく始めた楽器だ。長く続けたいとも思っている。
 ならばやはり買ったほうが良いだろう。
 どうせ買うなら、早いほうが良い。
 具体的なことはまだ把握していないが、ほまれちゃんの企画に出るなら、それに間に合わせたい。

 必要な予算は五万円から十万円ほど。
 下限ならなんとかなるが、ずっと付き合うことになる楽器だ。妥協はしたくない。
 額の差が必ずしも性能差ではないといのりちゃんは言っていたから、安い物が気に入る、またはわたしがやろうとしている演奏にマッチしている可能性はある。でもそれは、上限の商品が該当する可能性も同じだけあるということだ。

 となれば、いったん十万強という額を目標値とする必要がある。

 手持ちの金額は二万円。
 普通にしていたら次の給料は四万円弱くらい。
 イベントの開催時期的にその次の給料までは待てない。

 自主練に時間を割くことを考えたら、空き時間全てバイトというわけにもいかない。

 両親からの毎月の仕送りは生活費だ。だからバイト代は全て自由に使える。
 仕送りには余裕があった。両親からすれば、小遣いの意図も含めているのだろう。その余剰は生活費とは別の固定費に充てている。
 それでも多少余った分は貯金してあった。毎年のお年玉も最低半分は貯金している。年によってはほぼ全額貯金できたこともある。
 これが約五十万円。十万円貯まるごとに定期にしてあったから、すぐおろせるのは端数の八万円。
 これをおろせばすぐに買えなくもないが......切り札を安易に切ることに抵抗があった。切り札だからこそ、切るべきに切るべきだとも思うのだが。

 さて、どうしたものか。


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