スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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ハーゲンダッツとピノ

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(姫田 願子)

 エンサイオの帰り道。
 車で送ってくれているいのりちゃんが、コンビニでなにか買ってくれると言う。
 わたしとめがみちゃんはハーゲンダッツクリスピーサンドにすることに決めた。
 あとはフレーバーをどうするか、だ。
 めがみちゃんの提案で、それぞれ違うフレーバーにしようということになった。それはきっと、シェアしようと言う意図がある。


「めがみちゃんどっち? めがみちゃんが選ばなかった方にする!」

「よし、じゃあわたしキャラメルのにするから、のんちゃんいちごのやつね。食べ合いっこしよーよ」
 やっぱり。
 どちらかといえば幼く見えるめがみちゃんだが、アイスではしゃいでいる姿は小学生みたいだった。

 
 しかし、いのりちゃんが先ほどめがみちゃんの普段買うおにぎりのことで「保守的だ」と言っていた通り、新作や限定品に興味はありながらも、自ら選ぶのは定番商品のめがみちゃん。
 性格が出ているなぁ。
 

「よし、行くよー」

「はーい」

「いのりちゃん、アイスごちそうさまです!」

「どういたしましてー。ふたりの見てたら私も食べたくなって買っちゃった。一個食べる?」いのりちゃんはエンジンを起動させるためのボタンをプッシュしながら、助手席に置いたコンビニ袋の中から赤い箱を取り出し、ピリピリとふたを開け後部座席に差しだした。

 
「ピノだ!」

 
 めがみちゃんが嬉しそうな声を上げ、さっそくひとつを手に取る。
 片手にはすでにパッケージを開け食べられる状態になっているハーゲンダッツを持っている。
 
 めがみちゃん、意外と貪欲。「アーモンド! やったー」暗い車内でアソートタイプの箱から適当に一つ選ぶため、好きなフレーバーが取れたらラッキーだ。

 わたしも遠慮なくひとついただくことにした。

 わ、やった、わたしもアーモンドだ! アソートタイプは個包装になっていて食べやすい。

 おいしい。
 普段はアイスの実派だが、ピノも良いね。……わたしもこういうのを選べば良かったか。そうすればマレや祖父母と分けて食べられたのに。

 
 いのりちゃんもひとつ開け、口にほおって車を動かしはじめる。

 
「のんちゃんちの近くまで送るからね。お蕎麦屋さんの近くだよね?」
「うん、歩いて一分も離れてない」
 
 よし、じゃあお店を目指そう、と、時間帯的に空いている道を、いのりちゃんはややスピードを上げて車を走らせた。
 
 結局家の目の前まで送ってくれたいのりちゃんの車が見えなくなるまで見送って、玄関に入る。

 手にはピノの箱。「コンビニつき合わせちゃってごめんね。残りもので申し訳ないけど、良かったらご家族で分けて」と、持たせてくれた。
 わたしのちょっとした後悔を察してくれたわけではないだろうから、そもそもそういう気づかいをする人なのだと思った。

 細やかなところ、挙動の節々に、大人だなぁと思わせてくれるいのりちゃん。
 実際は大人だからと言って誰もが気づかいに長けているわけではないだろうから、いのりちゃん個人が気づかいの人なのだろう。
 
 
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