スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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休憩中に

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(渡会 類)


「のんてぃもこっちおいで―!」
 
 突然、なんか呼ばれた。
 声の主は渡会類わたらいるい。サンバネームはるいぷる。
 少し小柄な女性ダンサーだ。二十代前半から半ばくらいの年齢だったと思うが、顔立ちが幼いからか立ち居振る舞いが子どもっぽいからか、クリアンサス(十八歳未満のダンサー)の中でも年少の子たちとよくふざけ合っているからか、あまり大人には見えない。
 というより、言動行動がだいぶトリッキーなこともあって、「こんな大人いるんだ……」と思わされることもある。

 
 声の方を見ると、るいぷるが男性ダンサーのアキと、ほまれちゃんと話していたようだ。

 
 るいぷるの叫んでいた内容によると、何やら新人にいろいろ教えたいらしい。
 興味を持っためがみちゃんも一緒に、るいぷるのもとへと行った。

 
 主題は、「偶然」について。「縁」に置き換えても良いかもしれない。

『ソルエス』のメンバーは、縁によって結ばれている人たちが多い。親子や兄弟などの親族のほか、職場の同僚や元々友人知人だったなど。

 
 わたしもまさにそうだ。
 たまたまいのりちゃんやめがみちゃんと幼馴染だった。
 たまたま選んだバイト先でめがみちゃんに再開した。
 友だちとの話題の中でたまたま見かけた動画の主はいのりちゃんだった。
 たまたま繋がっためがみちゃん経由でいのりちゃんとも再会し、かつて憧れたお姉さんのいのりちゃんに促されるまま、『ソルエス』に入会し、サンバを始めることになった。
 そこで出会ったほまれちゃんは双子の姉のバレエ仲間だったというのだから、出来過ぎだ。

 ほまれちゃんもほまれちゃんで、わたしやいのりちゃんとの縁もさることながら、アキがバイト先のお客様だったらしいから、驚きだ。

 
「あまり印象無い……?」

「えー! あきにいひどー! げどー!」
 どうもアキはほまれちゃんにすぐに気付かなかったようで、そのことを責められている。


 縁のくだりでいえば、るいぷるは職場の先輩ジアンの紹介で入会している。
 ジアンは『カザウ』と呼ばれる男女のペアダンサーで、エスコーラの象徴旗『パビリャオン』という旗(『バンデイラ』)を司る重要なポジションだ。旗を守る女性の『ポルタ・バンデイラ』と、ポルタをエスコートする『メストリ・サラ』の組み合わせで、『ポルメス』と呼ばれたりもする。
 ジアンのパートナーが、恋人でもあるミカで、ミカのお兄さんがアキだ。
 ジアンの妹分を自認していたるいぷるは、アキを兄のように呼ぶようになったとのことだった。
 

 お店とここじゃ明かりも違うし雰囲気も違っていたからといったことを言っていたアキに「わー、言い訳してるー! いさぎわるーい」と、るいぷるの追撃は容赦がない。
 
 るいぷるはわたしとがんちゃんの間に入り、わたしたちの肩を組んで、「ほらごらん? あれが言い訳する男だよ」とささやいた。
 その時のアキの何とも言えない表情が面白くて笑ってしまった。
 めがみちゃんも、「えー、ひどーい」と笑っていた。めがみちゃんも大人の男の人相手にいじったりするんだ。ちょっと意外。

 和やかで和気あいあい、とはちょっと違う気もするが、気安い仲間同士の遠慮の要らない会話って感じで楽しい。

 
 アキはるいぷるのことは無視してほまれちゃんとの会話を進めていた。
 どうもお店で交わした会話に関しての擦り合わせのようだが――。

 
「――じゃあ、あの話も覚えてる?」ほまれちゃんがアキに何やら尋ねている。

 
 え、なになに?
 なんか意味深な会話が進んでいた。
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