スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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(姫田 願子)

 二十分ほどの通しの演奏を終え、いったん休憩となった。
 今演奏していたのは直近のイベントのセットリストらしい。ステージでのショーのようだ。
 音の止んだ会場では、休憩する者や演者同士軽く打合せする者など様々。

 私はそのイベントにはスタッフとして参加するつもりだったが、いつかのデビューに向けて、出演するつもりで練習に参加しよう。

「のんちゃん、できてたねー」
 スポーツドリンクが入って良そうなストロー付きのボトルからドリンクを吸っていためがみちゃん。
 
「すごく疲れるね」
 でしょ? と、めがみちゃんは入会したての頃の苦労を語った。

「今も劇的に体力や筋力が付いたわけじゃないけれど、叩き方に変な力みが無くなったのか、前よりは楽になってきたよ」
 慣れもあるのかも、と笑う。
 それならば、特別筋トレなどはしなくても、いつかわたしももう少し楽に演奏できるようになるのかもしれない。
 
「今やってるのはステージの練習で、何曲も連続でやるから曲によって演奏が変わるのも大変なんだけどね。パレードだとまたちょっと違くて」
 
 パレードの場合は同じ曲若しくはメロディや歌の無いバテリアのみの『バトゥカーダ』という演奏になる。曲が次々変わっていく大変さは無いが、パレードの長さによっては一時間弱に及ぶ場合もある。
 もちろん途中に休憩を挟めることが殆どだが、パレートイベントは野外。
 大抵その手のイベントは夏が多く、炎天下の中楽器を持って移動しながらの演奏となる。野外のため、環境によっては強風や、雨天決行なんて場合もあるのだとか。

 
「まあ、わたしもそんなに経験があるわけじゃないんだけどね」

 
 めがみちゃんが入会したのは昨年の、イベントシーズンが落ち着き始めた頃だった。
 春にもぽつぽつとイベントはあり、パレード経験が無いわけではないが、炎天下というのは未経験だ。尚、春のイベントは豪雨の中決行したらしく、それはそれで難行を超えてきたともいえるのだが。

 
「大変だし絶対きついのわかってるけど、浅草はやっぱり楽しみなんだ」

 
 浅草とは、『浅草サンバカーニバル』のことだ。
 通常のパレードとは異なり、毎年その年のために起こされたテーマと、テーマに沿った楽曲、衣装、振付けで行い、審査員の審査を受け順位が付けられるコンテストだ。

 参加エスコーラは順位によって一部リーグと二部リーグに仕分けられ、昨年の二部リーグ優勝エスコーラは一部に昇格し、一部の再開は二部リーグに落ちるシビアなイベントである。
 約四十分、炎天下のもとで行われるパレードで、審査もされるというのだから手抜きやミスは許されない。
 確かにきつそうだが、一年に一度の重要イベントだ。サンビスタにとっては気合は入るしモチベーションは上がるのだろう。

 
「のんちゃん既に叩けてるし、浅草間に合うよ! 一緒に出られたら良いね」

 
 がんちゃんは嬉しそうだった。
 確かに、どうせやるなら出たい。どうせ練習するなら、目標は定めたい。浅草を目指すというのはなんとなく気持ちが昂る感じがした。
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