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必要な寄り道
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わたしが学校に行っている間、マレは勉強をしたりトレーニングをしたりして過ごしていた。
自主学習にしても自主トレーニングにしても、適した指導者によるものに較べれば、精度は劣るだろう。
怪我を機に、何かが折れ、或いは何かに破れ、敗走するように故国へと戻ったマレ。
しかし完全に諦め、捨てたわけではないから、自主トレーニングに励んでいる。そこには大きな矛盾がある。
已むに已まれぬ事情で十全でなくなることは仕方がない。であれば、次善の手段を取るべきだ。
マレの場合で言えば、留学先で適したカウンセリングを受けながら身体をメンテナンスし心を整え、できる範囲で最大限の成果を望めるトレーニングを積む。
メンタル面でもフィジカル面でも、専門知識と技術を持った人材の存在と、癒すにしても訓練するにしても最適な設備や環境が不可欠で、現地にはそのいずれもが揃っている。
それを捨ててでも逃げ帰ってきたのなら、故国に求めたものを得る事に特化できたら、それはそれで意味があったと言えるのではないだろうか。
例えば、心理的安寧であれば、癒しと回復に費やすため、いっそバレエのことは完全に忘れて過ごすというのも有効だったかもしれない。
しかしマレは、現地からは逃げ出し、さりとてこの国で焦燥感を抱えながら少しでもバレエから離れないようにとしがみついていた。
この矛盾がマレに苛立ちを生じさせていた。
最適とは言えない環境でトレーニングと身体のメンテナンスをし、不充分な成果で焦りは募るばかり。
専門家不在の中で身体がまたはメンタルが、いつ回復するか、どうやったら回復できるのか、具体的な指針がない中で不安も降り積もっていく。
おばあちゃんはそのすべてを事細かく承知していたわけではないのだろうけど、おばあちゃんの提案はそのすべてをケアしてくれたのかもしれない。
限られた時間だけとはいえ、『弥那宜』で給仕のバイトを始めたマレ。
バレエとは全く関係のない環境で、バレエのことなんて考えてられないほど忙しく身体を動かす。
多種多様なお客様に従業員の立場で接する行為は、ホスピタリティや接客技術を身に付けられる機会となるが、そのもっと手前で、対人に於ける緊張感を伴う交流の体験を積むことができる。
職人と給仕や給仕同士、秒ごとに状況が変化する現場にあって、有機的な連携もまた、対人に於ける相互の信用と信頼を体現する場となる。
人間性だけではなく、能力的な意味に於いての信頼は、相手を充分に把握してなくてはならない。
おばあちゃんにそう言う意図があったかどうかも,マレがそう言う意識を持つかどうかもわからないけれど,きっと良い方向に進むと思えた。
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