44 / 218
【幕間】 祷の空白4
しおりを挟む
医者は説明の流れで治療名は伝えたが、具体的な術式の説明はこれからだった。
にもかかわらず、即断した患者に、これから具体的な説明をするのでよく考えるよう伝え、家族と話し合うよう促した。
この症状には、カテーテルアブレーション治療で対応することになる。
医療に関する知識の無い者が、「心臓病の手術」と言葉だけを聞けば、身体を開く大手術を想像されることもあるだろう。
しかし祷は、考える素振りも迷う様子も見せず、手術を選んだ。
医者の言った治療名を知識として知っていたか、カテーテルという単語から、切る手術ではないと判断したのか。
それとも、大手術であったとしてもする場合としない場合のリスクの評価と判断を素早く実行し、結論を出したのかもしれない。
「具体的な説明をしますね。結論は改めて出していただいて結構です。また、ご家族の同意も必要になりますので、書類だけでも結構なのですが……」
できれば説明に立ち会って説明を受けてくれた方が良い。
手術前にも家族を伴う説明があるが、まだ学生で親元にいる患者だ。頭の回転が速く決断力に富んでいる印象の患者ではあるが、家族とは状況を共有してもらいたい。
それに、これはすべての手術に言えることだが、どんな手術でもリスクがある。万が一のことを家族に伝えないわけにはいかないのだ。
医師は果断な性質を持っている患者は、独断の気があると考えていた。
家族に対してなんらかの事情があるのか性格なのかはそれぞれあるが、基本姿勢として「独りで立っている」。
頼らない、頼れない、頼りたくない、頼るという概念がない……理由は様々あれど、「可能なら」「どうしても譲れないこだわりではないのなら」、家族でも親族でも、誰かを伴ってもらいたかった。
病気と闘うのは患者自身だが、病気との戦いは孤独ではないのだから。
それに、医者側の立場としては万が一に備える必要があった。丁寧な説明と、都度都度の合意形成を患者の家族や親族と構築しておくことで、万が一の際に医師自身と病院を守ることができる可能性が高くなる。などと思うことは利己的にも捉えられそうだが、少なくとも誤解によって悲しみや怒りを親族に与え、訴訟などのリスクを医者や病院が被るのはお互いに不幸だ。
だから医者は、どんな患者であれできるだけ丁寧に説明したいと考えていたし、できるだけあらゆる段階で家族と同席を、難しければ情報の共有をしてもらいたいと望んでいた。
様子を伺うに、医師には祷に家族に特段共有できない、ないしはしたくない事情があるようには見えなかった。
にもかかわらず、即断した患者に、これから具体的な説明をするのでよく考えるよう伝え、家族と話し合うよう促した。
この症状には、カテーテルアブレーション治療で対応することになる。
医療に関する知識の無い者が、「心臓病の手術」と言葉だけを聞けば、身体を開く大手術を想像されることもあるだろう。
しかし祷は、考える素振りも迷う様子も見せず、手術を選んだ。
医者の言った治療名を知識として知っていたか、カテーテルという単語から、切る手術ではないと判断したのか。
それとも、大手術であったとしてもする場合としない場合のリスクの評価と判断を素早く実行し、結論を出したのかもしれない。
「具体的な説明をしますね。結論は改めて出していただいて結構です。また、ご家族の同意も必要になりますので、書類だけでも結構なのですが……」
できれば説明に立ち会って説明を受けてくれた方が良い。
手術前にも家族を伴う説明があるが、まだ学生で親元にいる患者だ。頭の回転が速く決断力に富んでいる印象の患者ではあるが、家族とは状況を共有してもらいたい。
それに、これはすべての手術に言えることだが、どんな手術でもリスクがある。万が一のことを家族に伝えないわけにはいかないのだ。
医師は果断な性質を持っている患者は、独断の気があると考えていた。
家族に対してなんらかの事情があるのか性格なのかはそれぞれあるが、基本姿勢として「独りで立っている」。
頼らない、頼れない、頼りたくない、頼るという概念がない……理由は様々あれど、「可能なら」「どうしても譲れないこだわりではないのなら」、家族でも親族でも、誰かを伴ってもらいたかった。
病気と闘うのは患者自身だが、病気との戦いは孤独ではないのだから。
それに、医者側の立場としては万が一に備える必要があった。丁寧な説明と、都度都度の合意形成を患者の家族や親族と構築しておくことで、万が一の際に医師自身と病院を守ることができる可能性が高くなる。などと思うことは利己的にも捉えられそうだが、少なくとも誤解によって悲しみや怒りを親族に与え、訴訟などのリスクを医者や病院が被るのはお互いに不幸だ。
だから医者は、どんな患者であれできるだけ丁寧に説明したいと考えていたし、できるだけあらゆる段階で家族と同席を、難しければ情報の共有をしてもらいたいと望んでいた。
様子を伺うに、医師には祷に家族に特段共有できない、ないしはしたくない事情があるようには見えなかった。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(交響) primeira desejo
桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。
高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。
ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。
出会ったのは、スルド。
サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。
姉のこと。
両親のこと。
自分の名前。
生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。
※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
現代文学
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
サンバ大辞典
桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。
サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。
誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。
本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる