スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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一緒に

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 蚊帳の外感は、ある。

 家族一丸となって目標に向かっているとするなら、そこに加わっていないわたしは家族ではないのか、とも。

 
 でも一方で、大変だなぁと思っていた。
 その脅威の努力に敬意を払ってもいた。わたしには無理なんて思いもあった。

 みんな揃ってフランスへって話になった際には、わたしにも向こうの学校はどうかと誘ってもくれた。
 両親は別に、わたしを蔑ろにしていたわけではない。ただ、特に手がかからず制限もないわたしに、必要充分な対応をし、様々な条件を有すもう一人の娘にもまた、必要な対応をしたに過ぎない。
 こだわりなどおそらく持っていないだろう妹の方は、一緒に連れて行けば良いと。姉を優先し妹に我慢を強いるような構図でないのなら、その提案は決して差別的ではない。

 実際わたしには、特に行きたい学校があったわけではない。それでも、日本の学校が良いと断ったのもわたしだし、ひとり暮らしできるなんて浮足立った気持ちをもつくらい、残されることに負の感情は抱いていなかった。

 両親もまた、同行を強要はしなかった。わたしが望むことを、望むままに受け入れてくれた。いきたい学校を選ばせてくれ、そこに通うために必要な住環境も用意してくれるつもりでいてくれた。

 結果おばあちゃんちに住むことになるが、それもまたわたしにとっては嬉しい要素だった。

 
 だから、両親も双子の姉も、ちょっと他人事のような感覚は含めつつ、「尊敬」の対象だった。
 正直多少の嫉妬がないでもなかったが、その実績や結果には素直にすごいと思えたし、憧れも誇らしさもあった。それに、そんな姉や、同等に才能と努力でそれぞれ建てた目標を確実に射止めていた両親と、同じ血が流れている自分にも、「わたし、可能性の塊じゃん」などと楽観的な期待を持っていた。


 ただ、バレエに全振りしていたマレとは留学前から密な交流はあまり起こってはいなく、一緒に遊んだりじっくり語り合ったりなんて記憶はほとんどない。
 同じ家に住む血の繋がった他人といった感覚だ。仲が悪いわけじゃないけれど関係性は希薄。
 やっぱり少し寂しいのと、「せっかく双子なのに」「もったいないな」というよくわからない感覚はあった。

 
 マレが戻ってくる。
 どうやら一緒に住むことになるらしい。経緯は詳しくは聞いていない。

 どれくらい一緒に居られるのだろう。
 戻ってきたその理由は無邪気に訊いて良いものだろうか。

 一緒に過ごせるようになり、例えばその間はバレエ漬けでなくなるのだとしたら、姉妹らしく過ごしたいと思うが、どうしても探り探りになりそうだ。

 
 身内なのに、他人よりも距離を詰めるのが難しい。
 身内だから、なのかもしれないが。

 
 
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