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バイト先にて
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うちのバイト先にはちょっと特別なパートタイムの女性従業員がいる。と、トレーナーのめがみちゃんから聞いていた。
本業はプロのイラストレーターで、コラムやマンガなども描いている。
食や飲食店に関する記事が得意分野で、たまに取材を目的に働きに来るのだとか。
店長の裁量でそのような雇い方をしているようだ。特別な扱いをしている理由は、やや慢性的な人手不足の店舗であるため、スポット的でもオペレーションを理解している人が居てくれる分には助かるという点と、不定期にSNSで発信しているファミレスの従業員を主人公とした一ページマンガが人気で、この店舗がモデルであることは周知の事実となっており、集客に繋がっているという点が挙げられる。
わたしもめがみちゃんのスマホでその人の作品を見せてもらった。
ノノというネコのファミレス店員がホールやキッチンでのあるあるを展開すると言うもの。わたしにも心当たりのある出来事なんかもあって面白かった。
乃木埜々子さん。ノギノノコ名義のアカウントで発信している件のマンガは、自身の体験談でもあるエッセイマンガ的な側面も持っている。
主人公はネコの姿をしているがノノは乃木さん自身だ。
その点からも、自身のことや店舗のことを、隠すという意図はないことがわかる。尚、猫のキャラクターはノノネコとしてグッズ展開もしている。
たまたま駅のガチャガチャで見かけたのでやってみたら、ステーキを食べようとしているノノが当たった。ファミレス店員なのにつくるでも提供するでもなく、食べる側なのか。
その他、主に食に関するテーマが中心のコラムやレポートなどはキノコの被り物をした乃木さんの写真のノギノコ名義のアカウントで発信している。
そんなちょっとした有名人で、最近は忙しいため店舗には月に何度か顔を出すか出さないかといった頻度のレアキャラ乃木さんが、今日パートに来るのだという。
「乃木です。よろしく!」
初対面のわたしを目ざとく見つけ、さっそく挨拶をしてくれた乃木さん。わたしも慌てて応える。
月に何度かしか来てないと、来るたびに誰か増えてたり減ってたりするから、常に新鮮よねーと笑いながら店長と話している。減るのは困るし課題なんですけどね、と店長。
「あ、がんちゃーん。ちょっと雰囲気大人っぽくなってない? 髪少し伸びたからかな?」
なんていいながらめがみちゃんとじゃれている。
「この前お願いした件ね、担当結構乗り気! ちょっと具体的な話になったら改めてお願いさせてもらうから連絡するね」
「わー、楽しみです!」
乃木さんはめがみちゃんとなんらかの話を進めているようだ。少し気になるが無駄話ばかりしていられない。
それぞれ準備を整え、仕事に入った。
「いらっしゃいませ。何名でお越しでしょうか?」
来店した四十代くらいの男性に声を掛けた。この店舗では入店時に必ず人数を訊くことになっている。
「は? ひとりだけど? ほかに誰かいるように見える?」
うわ、なにこいつ。感じ悪!
「失礼いたしました。お一人様ご案内します」
言いたいことはあるが、それを言っても仕方ない。笑顔で言いたいことを飲み込み、席へと案内する。
「のんちゃん! さっきの見てたよ、よく我慢したねー。私だったら顔に出ちゃってたかも」
バックヤードで乃木さんに声を掛けられた。わたしの呼び方は周りに合わせたようで、いつのまにか「柳沢さん」から「のんちゃん」に変わっていた。
本業はプロのイラストレーターで、コラムやマンガなども描いている。
食や飲食店に関する記事が得意分野で、たまに取材を目的に働きに来るのだとか。
店長の裁量でそのような雇い方をしているようだ。特別な扱いをしている理由は、やや慢性的な人手不足の店舗であるため、スポット的でもオペレーションを理解している人が居てくれる分には助かるという点と、不定期にSNSで発信しているファミレスの従業員を主人公とした一ページマンガが人気で、この店舗がモデルであることは周知の事実となっており、集客に繋がっているという点が挙げられる。
わたしもめがみちゃんのスマホでその人の作品を見せてもらった。
ノノというネコのファミレス店員がホールやキッチンでのあるあるを展開すると言うもの。わたしにも心当たりのある出来事なんかもあって面白かった。
乃木埜々子さん。ノギノノコ名義のアカウントで発信している件のマンガは、自身の体験談でもあるエッセイマンガ的な側面も持っている。
主人公はネコの姿をしているがノノは乃木さん自身だ。
その点からも、自身のことや店舗のことを、隠すという意図はないことがわかる。尚、猫のキャラクターはノノネコとしてグッズ展開もしている。
たまたま駅のガチャガチャで見かけたのでやってみたら、ステーキを食べようとしているノノが当たった。ファミレス店員なのにつくるでも提供するでもなく、食べる側なのか。
その他、主に食に関するテーマが中心のコラムやレポートなどはキノコの被り物をした乃木さんの写真のノギノコ名義のアカウントで発信している。
そんなちょっとした有名人で、最近は忙しいため店舗には月に何度か顔を出すか出さないかといった頻度のレアキャラ乃木さんが、今日パートに来るのだという。
「乃木です。よろしく!」
初対面のわたしを目ざとく見つけ、さっそく挨拶をしてくれた乃木さん。わたしも慌てて応える。
月に何度かしか来てないと、来るたびに誰か増えてたり減ってたりするから、常に新鮮よねーと笑いながら店長と話している。減るのは困るし課題なんですけどね、と店長。
「あ、がんちゃーん。ちょっと雰囲気大人っぽくなってない? 髪少し伸びたからかな?」
なんていいながらめがみちゃんとじゃれている。
「この前お願いした件ね、担当結構乗り気! ちょっと具体的な話になったら改めてお願いさせてもらうから連絡するね」
「わー、楽しみです!」
乃木さんはめがみちゃんとなんらかの話を進めているようだ。少し気になるが無駄話ばかりしていられない。
それぞれ準備を整え、仕事に入った。
「いらっしゃいませ。何名でお越しでしょうか?」
来店した四十代くらいの男性に声を掛けた。この店舗では入店時に必ず人数を訊くことになっている。
「は? ひとりだけど? ほかに誰かいるように見える?」
うわ、なにこいつ。感じ悪!
「失礼いたしました。お一人様ご案内します」
言いたいことはあるが、それを言っても仕方ない。笑顔で言いたいことを飲み込み、席へと案内する。
「のんちゃん! さっきの見てたよ、よく我慢したねー。私だったら顔に出ちゃってたかも」
バックヤードで乃木さんに声を掛けられた。わたしの呼び方は周りに合わせたようで、いつのまにか「柳沢さん」から「のんちゃん」に変わっていた。
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