スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
33 / 218

わたしの気持ち

しおりを挟む

(子どもの頃のいのりちゃんとめがみちゃん)


 幼い頃、わたしはきっと、めがみちゃんに嫉妬していた。

 
 そして今もまた、その想いを抱えてしまっていることを、自覚した。

 めがみちゃんのことを、「なんだか気に入らない」、と思ってしまっていた。

 
 そんな自覚している欠点すら改善できない、律しようと思っているなんて言っても律しきれていない、自分自身に一番腹が立った。

 
 
 めがみちゃんは、きっといい子なんだと思う。

 
 バイト先のみんなからもかわいがられている。
 あざとい立い居振る舞いでそういう立ち位置を手に入れる人もいるだろうけど、めがみちゃんの場合は、自然とそうなっているのだと思えた。

 
 素直で、一生懸命で、穏やかで、うるさくない程度に明るい。
 年下で後輩でもあるわたしに対しては親切で丁寧だ。

 
 余程の偏屈な人でない限り、好ましい人物として捉えられるはずだ。まして嫌われることなんてほとんどないと思えた。
 だからわたしが気に入らないなんて思ったってことは、わたしが偏屈側なんだと思う。

 
 めがみちゃんは油淋鶏をおいしそうに食べている。
 めがみちゃんを見ていたわたしと目が合うと、軽く微笑んで「これも食べよ?」と、大皿のエビチリを小皿に移し、わたしの分も取ってくれた。

 
 めがみちゃんは何の他意もなくわたしの誘いに応えてくれて、この場にいる。そして、この場を純粋に楽しんでくれている。その気持ちに対しては誠実でありたいと思った。

 
 良い人に嫌な思いをさせるのはわたしとて不本意だ。

 
 取り分けてくれた小皿を「ありがとう」と受け取り、さっそく大きめのエビをひとつ、口に入れる。
 身の引き締まったエビが口の中で弾けた。
 エビは大きくなると大味になると言われるが、この大ぶりの赤エビには当てはまらない。程よい辛さとほのかな甘さのチリソースが、エビ自体の甘みと重なって、複雑ながら一体感のある味わいが口の中に広がってゆく。

 
「えびちりおいしいね!」
 わたしが笑顔で言うと、めがみちゃんは嬉しそうにしてくれた。

 
 決して嘘などつかなくても、感情をとりつくろわなくても、楽しく過ごすことだってできる。
 良い人に対して負の感情を持つのは、相手への理解不足と、自らの側に問題がある場合だと思う。それはきっと、コミュニケーションを重ねることで解消できるはずだ。
 
 涌き立つ素振りを見せ始めた心の奥底の醜い感情には蓋をして、わたしはめがみちゃんに尋ねた。
 それは、訊きたかったこと。今日この場の目的でもある。

 
「いのりちゃんは今、どうしてるの?」


 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
現代文学
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...