スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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幼少期

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(バイト先の光景 手前:姫田 願子)

 驚いている姫田さんに追い打ちをかけるようにわたしは言葉を継いだ。


「わたしたぶん地元一緒! 姫田って駅の高台側にあるおうちだよね? 商店街の近くの公園で遊びませんでした? わたし一緒に遊んだ記憶ある!」

 
 興奮のあまり敬語と対等語が入り混じってしまう。

 
「え? そうなんだ? ぐうぜんー! うん、わかる、『大王コロッケ』の近くの公園でしょ?」

 
「大王コロッケ! なつかしー。そう、そこです。わたしのぞみです。覚えてます?」

 
「えっと、ごめんなさい、小さい頃公園でみんなで遊んだのは覚えてるんだけど、その場でわーって集まって遊ぶって感じだったから、名前おぼえてるひとほとんどいなくて……でも、柳沢さんが覚えてくれてるってことは、一緒に遊んだのは間違いないと思う」

 
 そっか、覚えてないか。まあ無理はない。子どもたちたくさんいたから。

 
 わたしははっきりと覚えている。というより、思い出した。

「めがみ」って名前がインパクト大というのもある。
 その名前を、わたしは思いっきりいじった。


 
「めがみだってー! 名前じゃないじゃんそんなのー」
「メガもり! メガもり!」
「ねえ? ねえ! 自由の? 自由の⁉︎ ……『めがみ』でしょー! なんで言わないのー?」

 
 記憶の中の幼いわたしは、我が事ながら無茶苦茶言っている。
 よっぽどつぼったのだろうか。それを言うわたしはいずれの場面でも、上機嫌で笑っていた。
 対するめがみちゃんは憮然な顔をしてうさぎのぬいぐるみを持って立っていた。
 

 イジメたつもりはないが、これはイジメだったのだろうか。
 よく、イジメた方は忘れても、イジメられた方は忘れないなんて言われるが、めがみちゃんは本当に覚えていないだろう。わたしのこと諸共。

 それも致し方ないことだと思う。
 めがみちゃんの周りには、いつもたくさんのお友だちがいた。わたしもまたその一人だ。

 
 めがみちゃんの名前で楽しんでいたわたしの前に現れたのは、めがみちゃんのお姉さん。こちらもはっきりと覚えている。いのりちゃんだ。

 いのりちゃんも幼い子どもだったが、当時のわたしからしたら素敵なお姉さんに見えた。
 そんな素敵なお姉さんが優しく微笑んで、「めがみと遊んでくれてありがとう。わたしも混ぜて欲しいな。あれ、めがみあまり笑ってないね。せっかくだからさ、みんな大爆笑するような遊びにしたら面白そうじゃない?」なんて提案してきて、いつのまにかめがみちゃんが大笑いしちゃうような遊びをみんなで考えているのだ。
 もちろん、みんなが大笑いする遊びなのだから、わたしだって楽しかった。

 わたし以外にも似たようなルートで仲間入りした子どもたちが増え、更に楽しそうに遊ぶその集団に惹かれ公園に来た子どもたちが巻き込まれるように参加してくる。

 
 いのりちゃんは頭が良く大人で素敵だった。
 提案してくれる遊びはいつも興奮を伴う面白いものだった。
 大所帯になってもひとりひとりに対して(いのりちゃんと同い年や年上の子に対してさえも)面倒見がよく、憧れのお姉さんだった。
 
 いつの間にか大所帯になった子どもたち軍団は、大人数であることを活かして陣営を分けて陣取り合戦や、大規模鬼ごっこなど、みんなで仲良く、楽しく遊んだ。
 
 
 中心で笑っていたのはめがみちゃんだった。
 周りにいた子たちのひとりひとりなんて、そりゃあ覚えていないだろう。

 
 はっきり言えば、気に食わなかった。
 
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