スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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入学

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「いってきまーす!」
 
「弥那宜」に顔を出すと、おじいちゃんと叔父さん夫婦、お弟子さんたちが忙しそうに朝の仕込みをしていた。
 
「おー、入学おめでとう。いっといで」
「今日からか。おめでとう! のんも高校生か。はやいなぁ」
「おめでとうのぞみちゃん! 高校生活楽しんでね!」

 
 おじいちゃんと時成おじさん、睦季さんから挨拶とお祝いの言葉をもらう。お弟子さんたちも口々に「おめでとう!」と言ってくれた。

 
「じゃ、行こうか」
 
 おじいちゃんから掛けられた「美吉みよし、のんを頼むな」の声に、「任せて」と言うように手を振ったおばあちゃんについて、おばあちゃんが呼んでくれたタクシーに乗る。
 歩けるから大丈夫と言ったのだけど、今日は少し風が強く、入学式くらいしっかりとセットした髪型で参加すべきだとおばあちゃんに言われ、今日は贅沢することにした。無理を言っておばあちゃんを歩かせるのも違うし。

 入学式の案内には保護者の参加を促す内容が記載されていて、わたしは別にひとりで良いと思っていたのだけど、おばあちゃんが出席すると言ってくれたのだ。

 おばあちゃんは髪型はもちろん、しっかりと着付けもしていて、わたしよりも気合が入っている。


 車での来場は推奨されていなかったのと、他にもそういう生徒いると思うから気にされないだろうけどタクシーで登校ってのが贅沢なお嬢さんみたいに見られたらやだなって思いがあって、学校近くのコンビニの駐車場でおろしてもらった。
 時間に余裕もあるし、コンビニでミンティアと水も買いたかったという理由もある。


 式場に向かうおばあちゃんと別れ、玄関口でクラス分けの表を確認する。

 どんなクラスだろう。楽しみだな。

 教室の前までくると、今度は座席表を確認する生徒の群れが。群れに混ざり自分の席を見つけて教室に入る。

 時間になると担任の先生が入ってきて、簡単な自己紹介とこの後の流れを説明した。
 三十代くらいの男の先生。先生としては若い方だろうか。
 あまり人情家みたいな感じはしないが、どうだろう。変に厳しかったり面倒な感じの先生じゃなければ良いのだけど。


 先生に誘導され会場へと移動する。
 開式の言葉のあと、新入生の入場だ。
 入学式なんて何回も経験したことがあるわけではないが、なんの新鮮さも感じさせない内容で進行していく。

 入学許可宣言が終わり、校長先生の式辞やら来賓の祝辞やら祝電やら。
 これだけ生徒がいるのだから、誰かひとりくらいは、心に留まる言葉を得ているのだろうか。わたしは式が終わって五分経ったら単語のひとつすら思い出せない自信がある。

 宣誓している新入生代表くらいは覚えとこうかなと思うが、だいぶ離れたクラスの生徒だった。特に関わることがなければ、この人のことも多分すぐ忘れちゃうのだろう。


 それほどに、記憶に残ろうとしない式はなんの引っ掛かりもないまま終わり、無事新入生の称号を得たわたしたちは教室へと戻った。



 
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