スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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新生活

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 市営鉄道の駅を出る。


 よく晴れていて、空気には少しひんやりとしたものがあるが日差しは暖かくて心地よい日だった。


 周辺に高い建物はなく、歩道やベンチや植栽などが設られて半ば公園のようなイメージの広いロータリーは開放感があった。
 開けたロータリーにはバスは居なく、数台の客待ちタクシーが停まっていた。
 学生にとっては春休みだけど、平日の昼下がりということもあり人通りもまばらだ。

 
 駅周辺の高台には高級住宅街をいただき、文教エリアには学校が多く、閑静な住宅地という表現そのものの町だ。

 学校が多いため学生向けの店舗が多く、高級住宅街を擁している割にはリーズナブルなお店が連なっている商店街を十分ほど歩くと、ほぼ住宅しかない町並みが広がっていく。


 
 おばあちゃんは迎えに来てくれるといっていたが、十年ぶりに住むことになるこの町を、ゆっくり歩いて見て行きたいと思った。

 年末年始やお盆などに両親に連れられて来てもいたけど、車で直接来ていたので町並みをじっくり体感することは少なかった。

 改めて記憶の中にある十年前の町並みとの変化を探して歩いてみた。

 あの頃によく行った駄菓子屋がなくなっているななど、ピンポイントで覚えているところもあったが、新しそうな建物を見ても、前は何だったか覚えていることの方が少なかった。
 ただ、町全体の印象については、昔は住宅街って感じだったものが、ベッドタウンって感じに変化しているように思った。住宅街もベッドタウンも同じ意味かもしれないけど、なんて言うんだろう、ニュアンスが違うのだ。

 昔と言っても十年だし、変化の激しい大都会でもなければ、手付かずだった開発地でもない。街そのものが大きく変わったということはないのだろう。どちらかといえば、わたしの感覚が変わったのかもしれない。
 五歳と十五歳は考え方も感じ方もまるで違うのだろうから。

 
 おばあちゃんちは商店街を抜けてから更に五分くらい歩いたところにある。


 夏休みや冬休みにおばあちゃんちにいく子は多いと思う。
 小学校低学年くらいの頃は、「夏休みどこ行った?」みたいな定番な質問があるが、大体の子は「おばあちゃんち」もしくは「いなか」に行ったと回答していた。
 子どもの頃は、「おばあちゃんち」がイコール「いなか」なのだと思っていた。自分たちが住んでいるところも、「都会」とは言えない町なのに。

 
 多くの子どもたちが、おじいちゃんも健在なのに「おばあちゃんち」っていうのは何故だろう。
 会話中は違和感なく使っていた言葉だが、よくよく考えれば不思議な気もした。


 ただ、うちの場合は「おばあちゃんち」で合っていると思う。

 
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