170 / 197
動き出す街
しおりを挟む(要と誉)
ふたりで笑い合った。笑いから立ち直った要さんがひといきついていう。
「まあ、そんな一次会だったけど、全体としては結果楽しかったよね。あ、今度女子だけで遊ぼーって来てる。別の子からはリベンジで別の男子紹介してくれるって。今度は社会人だって。大手総合商社の人たちらしい。優秀な人たちなのかもしれないけど、だから良い人かって、また別の話だよねぇ。別に良いんだけど、正直女子だけの集まりの方が楽しそうだなー」
その感覚には私も同意だが、それは一般的なのだろうか?
「上杉先輩は彼氏つくらないんですかぁ?」
要さんには高校時代彼氏がいたはずだ。あまり一緒にいるところは見かけなかったし、受験が本格化する頃には外で会うことはほとんどなくなっていて、大学に入り郊外でひとり暮らしを始めるにあたっては、ほぼ自然消滅したというようなことは聞いていた。
「欲しくないわけじゃないよ。良い人いたら全然付き合いたいんだけど、今日の感じ見ててもさぁ、そういう場で良い人ってなかなかいない気がするー。色部は?」
私は私で、少々情けないが浮いた話はほとんどない。
バレエ漬けだった中学の頃の方がまだ彩りがあった。ありがちだが、同じ教室に通う子とパドドゥの練習をする中で少しだけ良い雰囲気になったことがあった。これもありがちだが、ダンスのパートナーとは練習する中でギクシャクしたりもするのだが。
「んー、私もおんなじです。欲しいけど、無理に作らなくても、とは思いますねー」
「ね、女子だけで全然楽しかったしね。カラオケも。ふたりだけになっちゃったけど、その分がっつり歌えたね」
「上杉先輩うた上手でしたぁ! 高校の時も何回かカラオケ行きましたよね。その時も上手でしたけど、なんか声に伸びが出てません?」
「そぉ? バイト先でたまに歌ってるからかなぁ? ねー、もう二人とも大学生だし、呼び方変えない?」
「え? 同じ学校だから、変わらず先輩じゃないですか」
「そーなんだけど、年取ればとるほど二歳くらいの年齢差なんてあってないようなものになるんだし、名前で呼び合おうよ」要さんは、お互い大学卒業しても、遊んでくれるでしょ? と、上目遣いで聴いてきた。
ええ、なにそのかわいいやつ。高校の時にはそんな姿見たことが無い。大学に入って……いや、バイト先で身に付けた技術?
「も、もちろんですともっ。ええと、じゃあ、要、さん?」
「なーに? 誉? ……あはははは! なんか距離詰まった気―するねー! 誉ぇ」
「ちょっと、要、さんっ……アルコール抜けてないんですかっ」
「やー、これは夜更かしハイでしょー」
「わかってるなら自制を……!」空はいつの間にかかなり明るくなっていた。
明るさに比例し、駅へと向かう人もちらほらと。人によっては公園を突っ切るルートを取っている。明らかにオールしたであろう学生っぽいふたりが、人目もはばからず馬鹿笑いしている姿はちょっと目立ってしまう。
ん? 駅に向かう人、ということは。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
現代文学
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる