147 / 197
どんな先生?
しおりを挟む
キノさんが穏やかに語ったその話は一般論の一部であり、キノさんの思う世の中の話で、まだキノさん自身の話にはなっていない。
「生徒たちとは仲良いの?」
踏み込みすぎかもしれないが、会話の流れだ。忌諱の雰囲気を感じるまではいってみよう。
「そうだね。意外と良いんだよ。生徒と共通の話題で盛り上がったり球技大会で活躍できる若い先生とか、話の面白い先生とか、そういう部分の何ひとつない面白味の無い先生だけど、まったく圧を感じさせないのが好ましいのか、必要に迫られていない場面であっても頻繁に声を掛けてくれる生徒が何人か居るね」
なんとなく納得できる話だった。
若くて見た目が良い先生は生徒人気が高いことがあるが、なんというかちょっと生々しい。
そして、その手の要素で高い人気を得ていると、ちょっとしたことで評価が暴落したりする。
生徒におもねっているように見えてしまうと途端に嫌われることもある。調子に乗っていると見られても同様だ。
やっていることは同じなのに、同じ評価者が前の日は肯定的だったものが次の日は否定的なんてこともある。
生徒は移ろいやすく、集団という実態を持たない個人個人とは別の生き物が、個人個人の好き嫌いを左右することもあることを考えると、やっぱり教職というのは大変だと思う。
キノさんは、飾らずあるがままで。
好かれようとは思ってなく、通したいほどの我も無いのでぶつかりにくく、元来の気質は穏やかで。
自然体の様子が枯れた風貌と相まって、妙な安心感や親近感を与えるのかもしれない。だから、ちょっとしたことを話しかけにいったり、時には相談事を持ち込んだりする生徒もいるのだろう。
どちらかと言えば生徒の方に近い年齢の私も、その気持ちはわかる気がした。
それを言葉にすると、やっぱり接客業のお世辞みたいになりそうだったので、代わりに別のことを言った。
「キノさんに心開いている生徒さんは、多分人間を見られる人たちなんだと思うな」
抽象的でよくわからない表現になってしまったけど、微笑んでいるキノさんを見ていると、おおよそ伝わったのではないかと思えた。
「どういう子たちなんですか?」
「今の時代を生きている多くの同世代の子たちと変わらないよ。当たり前のように将来の夢はYouTuberと言ってみたり、ちょっと流行った動画があれば延々とそれの真似を繰り返していたりね」
生徒の様子を思い出しているのか、キノさんは少し笑っていた。
そうか、元気でノリの良さそうな子も多いなら……。
「ね、キノさん! 私サンバやってるの前言いましたよね? 入ってるチームの助けも得て、お店のお客さんの知り合いも紹介してもらって、音楽イベントやるんです」
「へぇ」
キノさんは驚きというよりは感心した様子を見せた。
「生徒たちとは仲良いの?」
踏み込みすぎかもしれないが、会話の流れだ。忌諱の雰囲気を感じるまではいってみよう。
「そうだね。意外と良いんだよ。生徒と共通の話題で盛り上がったり球技大会で活躍できる若い先生とか、話の面白い先生とか、そういう部分の何ひとつない面白味の無い先生だけど、まったく圧を感じさせないのが好ましいのか、必要に迫られていない場面であっても頻繁に声を掛けてくれる生徒が何人か居るね」
なんとなく納得できる話だった。
若くて見た目が良い先生は生徒人気が高いことがあるが、なんというかちょっと生々しい。
そして、その手の要素で高い人気を得ていると、ちょっとしたことで評価が暴落したりする。
生徒におもねっているように見えてしまうと途端に嫌われることもある。調子に乗っていると見られても同様だ。
やっていることは同じなのに、同じ評価者が前の日は肯定的だったものが次の日は否定的なんてこともある。
生徒は移ろいやすく、集団という実態を持たない個人個人とは別の生き物が、個人個人の好き嫌いを左右することもあることを考えると、やっぱり教職というのは大変だと思う。
キノさんは、飾らずあるがままで。
好かれようとは思ってなく、通したいほどの我も無いのでぶつかりにくく、元来の気質は穏やかで。
自然体の様子が枯れた風貌と相まって、妙な安心感や親近感を与えるのかもしれない。だから、ちょっとしたことを話しかけにいったり、時には相談事を持ち込んだりする生徒もいるのだろう。
どちらかと言えば生徒の方に近い年齢の私も、その気持ちはわかる気がした。
それを言葉にすると、やっぱり接客業のお世辞みたいになりそうだったので、代わりに別のことを言った。
「キノさんに心開いている生徒さんは、多分人間を見られる人たちなんだと思うな」
抽象的でよくわからない表現になってしまったけど、微笑んでいるキノさんを見ていると、おおよそ伝わったのではないかと思えた。
「どういう子たちなんですか?」
「今の時代を生きている多くの同世代の子たちと変わらないよ。当たり前のように将来の夢はYouTuberと言ってみたり、ちょっと流行った動画があれば延々とそれの真似を繰り返していたりね」
生徒の様子を思い出しているのか、キノさんは少し笑っていた。
そうか、元気でノリの良さそうな子も多いなら……。
「ね、キノさん! 私サンバやってるの前言いましたよね? 入ってるチームの助けも得て、お店のお客さんの知り合いも紹介してもらって、音楽イベントやるんです」
「へぇ」
キノさんは驚きというよりは感心した様子を見せた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
太陽と星のバンデイラ
桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜
心のままに。
新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。
新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。
商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。
葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。
かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。
慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。
慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。
二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。
※表紙はaiで作成しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火
桜のはなびら
現代文学
マランドロはジェントルマンである!
サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。
サンバには男性のダンサーもいる。
男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。
マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。
少年が抱えているもの。
放課後子供教室を運営する女性の過去。
暗躍する裏社会の住人。
マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。
その時、彼らは何を得て何を失うのか。
※表紙はaiで作成しました。
千紫万紅のパシスタ 累なる色編
桜のはなびら
現代文学
文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。
周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。
しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。
そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。
二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。
いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。
※表紙はaiで作成しています
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。
代わりに得たもの。
色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。
大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。
かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。
どれだけの人に支えられていても。
コンクールの舞台上ではひとり。
ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。
そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。
誉は多くの人に支えられていることを。
多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。
成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。
誉の周りには、新たに人が集まってくる。
それは、誉の世界を広げるはずだ。
広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる