スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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 いのりからは簡易的なスタジオだと聞いていた。実際、あくまでも一般住戸の居室をスタジオ化したものだから、音楽室のような音響設備や防音機能は備わっていないが、それでも音源の録音も問題なくできそうな本格的な設えだった。
 
「うわぁ……すごっ、いのりんちお金持ちだけど、これ、親に頼ってないんでしょ?」
「家自体は親のものだからね。場所そのものは使わせてもらっている立場だから、頼ってないとは言い難いんだけど」
「機器も高そうだけど、内装も業者を入れてやるような大掛かりなものだよねぇ。すごー」
 
 確かにすごい。にーながしきりに感心しているのはよくわかる。マレとのんちゃんも「すごいね」と言い合っている。
 家も大きくて驚いたけど、学生の身で部屋内のみとは言えここまでしっかりリフォーム工事を入れるのはどれくらいお金がかかるものなのだろう。数百万はかかるような気がする。
 ほづみとひい、ルイ、アリスン、みことは何度か練習で訪れたことがあるようで驚きは無さそうだ。

 
「いのこ、大人のわたしよりお金持ってそー。いくらあんの? いくらあんの? 焼肉いこ?」

 
 るいぷるが無遠慮に訊いている。「えー」と笑顔で躱しているいのりを物ともせず、にーなに「あとで家探ししようぜ」などと言っている。
 同じ年齢でこの中では最も年長者のふたりが、最も子どもっぽく見える。
 そんな大人を見て、学生メンバーの中では誤差ほどの差でしかないが、もっとも若いマレとのんちゃんが笑っている。特にマレにとってはほぼ全員初対面となるが、緊張を感じさせない雰囲気にしてくれているのはありがたかった。
 
 
「まだ騒いでるの?」

 
 がんちゃんが大きなトレーに人数分のグラスと琥珀色の液体の入ったポッド、お茶やコーラなどのいくつかの二リットルペットボトルを載せて開けっ放しの扉から部屋に入ってきた。
 がんちゃんはいのりの妹で、同じくスルドの奏者だ。エスコーラでは軸の音を奏でるプリメーラを担当している。
 小柄で幼い雰囲気ながら、結構しっかり者で、時には姉のいのりもピシっとやられていることもある。
 いのり共々のんちゃんとは幼馴染で、のんちゃんがスルドをはじめたのは、バイト先で先輩として再会したがんちゃんがきっかけとなっている。

 るいぷるとにーなは家に着いた時から大騒ぎしていたので、そのテンションが維持されていることにがんちゃんは呆れていた。

 
「こっちも準備できたよー」

 
 ほづみが声を上げた。
 テーブルにはいくつかの取り皿に開けられたスナック菓子。元々置いてあったテーブルだけでは足りず、キャンプ用の折り畳みテーブルと椅子も出してある。
 

「ひゃっほう! カルパスあんじゃん!」

 
 ほんと、ずっと元気だなこの人。まあカルパスでテンション上がる気持ちはわかる。
 でも、いのりの家に向かうため、地元のマレとのんちゃんも含め、駅に集まったあと、駅近くのスーパーで買い出しに行った。みんなそれなりに手土産を持ってきてはいたが、るいぷるが追加で買い足したいと騒いだのだ。
 騒いだ手前もあるのか、「ここは人生の大先輩に任せたらんかい」と、渋い表情をつくって財布を出してくれたのはるいぷるだった。レジを通したのも彼女なので、おおよそ何が購入されているかは見ていたはずだ。

 この独特の気質や性根は生粋のものではあろうが、実は人のこと、その場のことを、よく視ているの人だと思う。
 清算後、「ねー、にーなぁ、半分出してぇ」と言いながら晒していた情けない姿もまた、偽りなき彼女の姿だろうけど。
 

「それじゃ、はじめましょか。自己紹介を、ね……!」

 
 え、キメるような内容じゃなくない?
まあ、とにかくるいぷるの仕切りで場が和やかに回り出すのは好ましい。
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