スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
108 / 197

本日二度目の驚き

しおりを挟む

(柳沢 望)

 いのりの自宅には簡単なスタジオがあるらしい。すごいな。

 そこでいのりと、彼女の妹でスルドはプリメイラを担当しているがんちゃんに、のんちゃんを加えた三人で自主練をしているそうで、のんちゃんは新人ながら、既に合同練習に参加しても差し支えない状態にあった。
 簡単なパターンでも多少複雑さのあるテルセイラで目立ったミスなく演奏できるのは結構すごいのではないだろうか。

 バテリア・ダンサーに分かれた練習時間が終わり、合同練習のためダンサーの練習場へと移動する。
 のんちゃんにもスルドで参加してもらう。
 ふたりでスルドを持って移動した。のんちゃんのスルドはチームのレンタル品だ。長く続けるなら自己所有のスルドがあった方が良い。彼女の指導係のソータとも相談して、中古も含めていくつか選択肢を用意してあげよう。
 前のチームの伝手も使えば多少心当たりはあるし、新品を買うなら買い物に付き合うのも楽しそうだ。
 マレも誘ったら来てくれるかな? 楽器選びだけだとマレには関係ないけど、ショッピングってカテゴリなら他人の買い物に付き合うことも楽しみのひとつになる。

 
 なんて、後輩の育成から自分の楽しみにシフトしてしまったが、これからのことに想いを馳せながらスローアップのパターンを身に刻む。

 スローアップは、その名の通りゆっくりしたリズムでしばらく演奏し、指揮者のヂレトールが合図を出し、中太鼓のカイシャが切り替えの切欠となる演奏を鳴らしてから、早いリズムの演奏に入る形式の演奏を指す。
 メロディや歌の入らない、バテリアのみの演奏である『バトゥカーダ』に於いて、よく取られる演奏だ。
 ある程度の提携のパターンはあるが、チームごとに工夫した独自のパターンを持っていて、経験者であってもチームにとっては新参者である私は、『ソルエス』の得意パターンを早々に取得する必要があった。
 
 今まで自分が使っていなかったパターンを覚えるのも演奏するのも楽しい。
 テルセイラはテクニカルで自由なスルドだ。興が乗りやすい楽器ともいえるかもしれない。
 今日はソータが不在だが普段イベントではスルドで足りないパートに入っているキョウさんがテルセイラで演奏している。キョウさんのレベルの高い「合いの手」に触発されて、私も前のチームで覚えた複雑なパターンを上手く取り入れて演奏した。テルセイラ志望ののんちゃんも簡易的なパターンながら必死についてきている。
 基礎を鳴らすプリメイラのがんちゃんとチカ、基礎の音に「応え」るいのりとジャックの演奏は安定感があって心強い。一層テルセイラが解放されたような気がした。

 
 ああ、楽しい……!
 
 
 そんな楽しさは、本日二度目の驚きで引っ込んでしまった。

 
「――――」

 
 おそらく何らかの挨拶の声を伴っての入場だがバテリアの音が大きく声は聞こえない。
 すでに着替えは済ませているその男性は、同じ男性ダンサーが練習している場に混ざっていった。

 
 え、まじで……⁉︎
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
現代文学
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...