スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

文字の大きさ
上 下
106 / 197

エンサイオにて

しおりを挟む
 学校の都合もあったのと、楽器を取りに一旦自宅に戻ってから練習場に来た私は、この日は早い時間には参加できず、ちょうどミーティング前に会場に着いたのだった。というよりも、ミーティングの開始を私の到着に合わせてくれたのかもしれない。
 
 他エスコーラに所属していた経験者とは言え、見学の段階を飛ばしていきなり入会するというのは珍しいようだ。
 イベントなどで見知った顔もちらほらあるが、大多数は初対面となる。
 サンビスタの中にはエスコーラの垣根を超えて友人知人の関係性を築いている者も多い。サンバという文化はその言葉の認知度の割には一般の人への浸透率は低い。その分、ある意味内輪的というか、サンビスタ同士は結びつきやすい傾向がある。
 そういう背景の割に、私は所属エスコーラ外で関係性を築けているサンビスタはほとんどいない。前にいたエスコーラと『ソルエス』は立地的な環境もあり、共同でイベントに出るなど盛んな交流があったわけでもないこともあり、顔はわかっても名前まで一致しているメンバーはほとんどいなく、まして知り合いと呼べる人は居なかった。

 前所属エスコーラ、サンバ歴、パートなど、丁寧に挨拶をした。


『ソルエス』は毎年数名ずつ新しいメンバーが増えているらしい。数名、と聞くと少ないが、サンバ業界全般でみると、規模の割に奮闘している方だと思う。倍以上の人数を抱えているエスコーラですら、新規メンバーの加入は数えるほどだったりするのが実情だ。
 
 新規の参加者の少なさと併せ、若い世代の獲得も業界を通しての課題である。
 学生チームを除けば、三十代でも若手というチームも多い。
 そういう意味でも、新規加入メンバーが毎年一定数いて、その中に十代二十代も含まれているというのは、チームとしての可能性を感じさせる。
 
 チーム全体に紹介するために、ミーティング時間を合わせてくれたとしたら、そういう細かいところのケアが行き届いているチームなのだろう。
 してもらったことは、返していきたい。そう思わせてくれるというだけでも、個人個人が機能や能力を発揮したいと思えるチームなのだと思った。
 
 
「改めてよろしくね。登録ネームはそのまま『ほまれ』にしたんだね?」

 
「はい、『いのり』さんもですよね? 前のエスコーラでもそうでしたし、それで良いかなーと」

 
「うん、サンバネームなんだから『さん』とか無くても良いよ。呼びやすければつけたままでも良いけどね」
 

 先輩ですしー。適宜使い分けます! と言った私に「いのり」は笑顔で頷き、
 
「で、ほまれに教えてもらいたい新人の子、もうすぐ着くって。会場前まで来ているみたい」

 
 高校生の子だと聞いている。下校後そのまま練習に向かっているらしい。学校からここまで一時間程度。なんでも体育祭の実行委員になったようで、今日は放課後にその準備もあったようだ。
 
 バテリアの練習場に戻り、改めてバテリアのメンバーに挨拶をしているところに、その新人の子が会場に入ってきた。

 
「こんばんわー!」
「……えっ⁉︎」

 
 元気な声に、私が思わず漏らした驚きの声は掻き消されたが、混乱が消えたわけでは無かった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
現代文学
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...