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祷さんに相談してみよう
しおりを挟む(姫田 祷)
パゴーヂをやるとすれば当然サンバ中心となる。それなりの規模で考えるなら、やっぱり相応のサンビスタの協力も不可欠だろう。
まだ入会できていないが『ソルエス』のバックアップは受けられないだろうか。
入会の手続きは祷さんが進めてくれている。
ほどなく代表と会談の機会が得られる見込みだった。
入会早々に企画を立ち上げるのは僭越? 聴いた限りの印象では、代表の方もチームのカラーも、その辺の感覚は鷹揚に思えたが、ごく当たり前の人間の感情として、部外者や新参者に全員が全員手離しで好意的とは限らないということは心に留めておかなくてはならない。
祷さんに予め相談しておこう。
手配のお礼をしつつ、なんとなく「こんなことを考えてる」といったことをメッセージで送る。
少し複雑だし、そもそもなにもまとまっていないので、できれば会って話したかったが、すべてこちらの都合だ。まずはやりとりで様子をうかがいながら進めよう。
そんな遠慮がちな思惑は、『とても良い考え! 絶対みんなも喜ぶよ。みんなに伝わりやすくするには具体的になってた方が良いよね。会って話さない?』と、何とも前のめりな返事で良い方向に裏切られた。
祷さんは決断と行動が早い。
次にお互いが大学に通う日を確認し合い、大学の図書館のラウンジで待ち合わせた私たちはそこで簡単な打合せを進めた。
セミナールームと違い予約がいらないため気軽に利用できる場所ながら、ホワイトボードはあるし軽い飲食しながら打ち合わせもできて使い勝手が良い。
「いつも時間取ってもらっちゃってすみません」
祷さんはいーよいーよと手を振っている。「ちょうど図書館に用あったから。結局東京キャンパスから取り寄せになるみたいで今日は入手できなかったけど、その手続きするにも図書館に来る必要あったし」
言いながら祷さんはマーティンキムのトートバッグからマックブックエアを取り出し、起動させる。マックを起動させる傍らでキャメル色のレザー製カバーが付いたB5サイズの手帳を開き、手元では鮮やかなブルーがさりげなく光るウォーターマンのボールペンを回転させてペン先を出した。
上品なゴールドフレームのラウンド型の眼鏡の少し色のついたレンズの奥の瞳は、前に見たときと同じく優しげだったが、心なしか本気の風情を感じる。
うわぁぁぁ………おっっっしゃれぇーーー!
え、マーティンキムってまだ日本では売ってないよね? ネット? 韓国旅行でも行ったときに買ったのかな?
えっ、確かに打ち合わせをお願いはしたけど、マックいる?
ええっ? マック起動させてるのに、ノートも使うの? すごくちゃんとしたボールペンって、意識高めのサラリーマン以外でも使うの?
えええ……? 祷さんて眼鏡するんだ? PC用かな? 眼鏡してる祷さんも素敵ー。でも、そこはかとなく漏れ出ている本気感が少し怖い。
えっ? えっ? さりげなく置いてあるコーヒー。ブルーボトル? どこで買ってきたの⁉︎
本格的な打合せになりそうな雰囲気に、いつの間にか自分のペンケースに入っていた業務用の1本数十円くらいのボールペンと、たいして書く領域の無い学生用の手帳のみで挑もうとしている私は内心震えあがった。
祷さんはこれを、意識高い系の自己顕示欲の発露としてやっていないところがまた恐ろしい。
別段発信することなくアピールすることもなく、ごく当たり前にさりげなく、自らが好ましいと思うものを純粋に取り入れているだけなのだ。
だからか、それぞれがまったく浮くことなく、祷さんの付属品であるかのように自然に馴染んでいる。
「さ、はじめましょうか」
わわ、なんかの教授みたい! やっぱ本気だ! 見限られないようにしなくっちゃ……!
「はい!」
元気に返事をし、アスクルなどで大量に発注するタイプのボールペンをノックしペン先を出した。
せめて漲るやる気を見せなくては。
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