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難攻不落
しおりを挟む(色部 誉)
目の前のお客様。
元たーくんの取引先の担当者で、未だに付き合いという立場を崩そうとしないお客様は、純粋にこのお店を楽しむために来店されているお客様とはスタンスが異なる。
その上、気質的にもこの手のお店を元来は好むようなタイプではないと思われるお客様。
硬さもあるがそれはビジネスライクに徹しているが故か。時折見せるたーくんたちとのやりとりの中で、突っ込み気質な側面や笑いを取れるようなトークも繰り広げているところから、根っからのお堅い人というわけでもなさそうなところは攻略ポイントになり得るか。
いずれにしても難易度は高めのお客様。
お金を稼ぐために仕事を頑張ろうと思った私は、まずはこのお客様に楽しんでもらおうと考えた。
そんな思いも、気合ひとつでうまくいくなら苦労はしない。
(うーーーーーーーーーん……なかなか崩れないなぁ)
ネクタイを緩め、シャツのボタンこそひとつ外しはしたものの、着ているものすら崩れない高天さん。
既に完全に出来上がっちゃっているたーくん軍団との差は人間と猿山くらい開いている。
「オレ暁さんすっきだなぁ! しごできって感じでかっけーっすわ」陽気に絡むユーキくんとグラスを合わせ、相手のペースに合わせるように飲み「おー! さすがぁ」などと歓声を浴びている。
ノリは相手に合わせながらも冷静で、テーブル上で足りなくなったものをさりげなくたーくんの許可を得ながら、私や要さんにオーダーを出す役を担い、場の充実が損なわれないようにする機能を全うしていた。
まあ、完全に仲間の関係性だったとしても、お酒に強い人や飲まない人が、団体の世話役のようになることはある。
他にその役がいないなら、この構図は仕方がないのだろう。この集団の中で、暁さんを楽しく酔わせるというミッションは想像以上に難易度が高そうだ。
でも、それを超えなくてはこのグループから抜けた立ち位置での来店は起こらないと思うし……。
「先日とちょっと雰囲気ちがうね」
手をこまねいていると、何の気まぐれか暁さんの方から話しかけてきた。
酒に吞まれた連中がぐだってきて、却って手間がかからなくなり、手が空いたからかもしれない。
「わかります⁉︎ 私、気合入ってるんです!」
なんのことやらわからないと思うが、なんとなく笑ってくれた。
「わけを訊いても?」
なんか洋画の字幕みたいな訊き方するなと思いつつ、せっかく訊いてくれたので大いに語らせてもらった。
海外で頑張ってる妹分が居ること。
一時的に帰国している今、彼女が望むことをできるだけかなえてあげたいこと。そのためにはお金と時間が必要なので、今のうちに稼いでおきたいこと。
それと。
まだ具体的な部分まで考えられてるわけでは無かったが、マレのためにちょっとしたステージショーも見せられるパゴーヂをやりたいなと思っていた。
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