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私の罪

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(色部 誉)

 マレはバレエに於いて、多数の大人たちに救けられ、護られていた。それを頼りにもしていたことだろう。
 環境としては、むしろ恵まれているとさえ言えた。


 だけど。


 小学生の身空で、シビアな分野で、日々しのぎを削るコンテストの世界に身を置き。

 日常にあってはおおよその多くの周囲とは共有できない特殊な世界。その後飛び込んだその分野に特化した海外での生活という環境の中。

 一度戦場に出てしまえばたった独りという戦いを続けていた彼女。

 
 そうさせてしまったのは、突如手を離した私だ。

 
 舞台裏で冷たくなった手を握って温めたことがある。
 背中に手を添え震える身体を落ち着かせたことがある。
 少しおしゃべりして緊張をほぐしたことも。

 
 そのいずれでも、マレは年相応の少女の笑顔を見せてくれた。さっきまでの強張った表情なんて嘘のように。

 
 私が居なくなった後、彼女の手を温めてくれる存在は、きっといなかった。
 護る手の無い中で、剥き出しの心は細かい傷を受け続けたのだろう。

 甘えられ相手を失った世界の中で。
 
 
 それはわたしの罪だろうか。
 
 
 
 
 マレの柔らかな心には、多分跡が残る治ることの無い少し深い傷がついている。
 
 
 
 
 まだ幼い子どもに過ぎなかったマレ。
 私がバレエの世界から去る決意を話したとき、まとまっていない文章で「自分のせい?」かと尋ねられた。
 驚きと悲しみと、もしかしたら怒りと、あらゆる感情で混乱のさなかにあった彼女が、辿り着いてしまった疑問だ。

 その疑問は、結論に変えさせてはいけなかった。
 マレが納得する形で、完全に否定してあげないといけなかった。
「そんなことないよ」と優しく、見方によっては寂しそうに言っただけでは、マレの疑問を解消したことにはならない。

 
 でも自分のことでいっぱいいっぱいだった私には、そう答えるのが精いっぱいだった。

 
「慕っていた先輩が自分のせいで辞めてしまったのかもしれない」という思いを残し続けてしまったことは、彼女を明確に傷付けたことだろう。
 
 
 これは間違いなく私の罪だ。



 だから、ということではない。

 
 私はその罪を贖うためにマレの望みを叶えたとしても、それは結果としてマレの望みとは大きくかけ離れたものとなるのだから。

 
 マレの望みは、私が本気でやりたいことでなくてはならない。
 私が望んで、やりたくてやることでないと。

 
 マレがバレエから少し離れ配信などの活動をしたいと本気で望むなら、私も是非一緒にやりたい。

 でも逃避の意図があるのなら。

 私のやりたいことは、マレが心の底から望む方向に向かえるようにすることだ。

 
 
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