上 下
91 / 170

マレはどうしたい?

しおりを挟む

(柳沢 希)

 沈痛な面持ちで、少し俯いているマレ。

 目の前のパフェにはメロンがたくさん載っている。
 私はそれをフォークで刺し、マレの食べ終えたワッフルサンドのお皿に乗せた。ひとつ刺しては載せ、を繰り返し、半分ほど乗せる。空いていたマレの皿は、ちょっとしたメロン皿になっていた。

 
「え? えっ?」

 
 私は目の前のパフェのグラスに残ったメロンをひとつ食べて見せ、
「メロン、おいしいよ。食べて」

 
 じゃあ、とマレが自らのマンゴーを譲ろうとするのを制し、「とにかく甘いの食べよ」と促す。

 
「よく、物語とかでさ、頭を使うキャラが甘いの摂って頭脳戦に臨むみたいなシーンあるじゃない? やっぱ何かを考えるには糖分って必要だよね」

 
 それに、自分へのご褒美と称する場合、甘いものが候補に挙がる場合が多い。ということは、甘さは心にも効くのだ。

 
「甘いの食べたらさ、考えがまとまったり、良い考えが浮かんだりするかもしれないし」

 
「おいしい……」マレはもしゃもしゃとメロンをほおばり、自分のマンゴーも追加で投入していた。

 
 
「マレは、どうしたい?」


 
 思うがまま。思いつく限りを言って欲しい。その想いを聴かせてほしい。

 
 マレが望むなら、私にできることはなんでもしよう。したいと思っている。
 
 
 
 マレの柔らかな心の表面には、きっと細かな傷がたくさんついている。
 
 

 
 
 マレは先生に頼っていたことだろう。
 バレエの世界でどのように進路を進めていけば良いか。
 ダンスの技術、バレエダンサーとしての在り方、食生活などを含めた日常生活に至るまで。

 かつて私と語り合った「オペラ座バレエ団」で踊るという夢は、同団にてエトワールとして、その語源たる星のように輝かんばかりのダンサーだったルイーズ先生に憧れたからだ。

 先鋭的で斬新なコレオを作り、自らが誇る高いダンサーとしての技量を以て表現して見せる里奈先生を尊敬していた。

 そんなマレは、ことバレエに関してはふたりの先生を絶大に信頼していたに違いない。


 
 マレは両親にも頼っていたはずだ。
 お金や労力が掛かることを常に気にしていたマレ。
 自分の夢と進路は諦めない意志の強さを見せつつ、負担を掛ける両親の負荷を少しでも下げるための努力は尋常では無かった。
 結果として高い実力を発揮し、奨学金を獲得したマレ。

 そんなマレに応えるよう、両親は全力で彼女の夢を応援し、なんと自らの仕事をもコントロールしてフランス留学を決めた彼女を現地で支援できる体制を整えたというのだから、その情の深さには驚かされた。

 マレは生活と、夢を追うという点に関し、両親の多大なる支援を受け、大いに感謝していたことだろう。


 
 責任感と矜持を持った彼女は、良き生徒、良きダンサー、良き娘だったはずだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら
現代文学
 マランドロはジェントルマンである!  サンバといえば、華やかな羽飾りのついたビキニのような露出度の高い衣装の女性ダンサーのイメージが一般的だろう。  サンバには男性のダンサーもいる。  男性ダンサーの中でも、パナマハットを粋に被り、白いスーツとシューズでキメた伊達男スタイルのダンサーを『マランドロ』と言う。  サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』には、三人のマランドロがいた。  マランドロのフィロソフィーを体現すべく、ダンスだけでなく、マランドロのイズムをその身に宿して日常を送る三人は、一人の少年と出会う。  少年が抱えているもの。  放課後子供教室を運営する女性の過去。  暗躍する裏社会の住人。  マランドロたちは、マランドラージェンを駆使して艱難辛苦に立ち向かう。  その時、彼らは何を得て何を失うのか。 ※表紙はaiで作成しました。

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
現代文学
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら
現代文学
〜メウコラソン〜 心のままに。  新駅の開業が計画されているベッドタウンでのできごと。  新駅の開業予定地周辺には開発の手が入り始め、にわかに騒がしくなる一方、旧駅周辺の商店街は取り残されたような状態で少しずつ衰退していた。  商店街のパン屋の娘である弧峰慈杏(こみねじあん)は、店を畳むという父に代わり、店を継ぐ決意をしていた。それは、やりがいを感じていた広告代理店の仕事を、尊敬していた上司を、かわいがっていたチームメンバーを捨てる選択でもある。  葛藤の中、相談に乗ってくれていた恋人との会話から、父がお店を継続する状況を作り出す案が生まれた。  かつて商店街が振興のために立ち上げたサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』と商店街主催のお祭りを使って、父の翻意を促すことができないか。  慈杏と恋人、仕事のメンバーに父自身を加え、計画を進めていく。  慈杏たちの計画に立ちはだかるのは、都市開発に携わる二人の男だった。二人はこの街に憎しみにも似た感情を持っていた。  二人は新駅周辺の開発を進める傍ら、商店街エリアの衰退を促進させるべく、裏社会とも通じ治安を悪化させる施策を進めていた。 ※表紙はaiで作成しました。

サンバ大辞典

桜のはなびら
エッセイ・ノンフィクション
サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の案内係、ジルによるサンバの解説。 サンバ。なんとなくのイメージはあるけど実態はよく知られていないサンバ。 誤解や誤って伝わっている色々なイメージは、実際のサンバとは程遠いものも多い。 本当のサンバや、サンバの奥深さなど、用語の解説を中心にお伝えします!

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...